杉並住民訴訟第2回口頭弁論関連書面 その2 

準 備 書 面 (8)   杉並区が臨時警備業務を委託したことに関し財務会計行為の違法性

準 備 書 面 (9)   「つくる会」、自民党タカ派議員らの採択への違法な介入

準 備 書 面 (10)  杉並区における教科書採択要綱・規則の恣意的「改定」

準 備 書 面 (11)  扶桑社版歴史教科書採択は実は内定していた?

準 備 書 面 (12)  _準備書面提出期限の延長について

 準 備 書 面 (13)_ 公正な裁判のために私たちの気持を汲み取り、
             準備書面をていねいに読んでいただきたいこと

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準 備 書 面 (8) 

2007年2月28日

 

杉並区が臨時警備業務を委託したことに関し財務会計行為の違法性

            

被告側答弁書の4 原告らの主張に対する反論(3)にある、「財務会計行為自体も適法になされていることから、・・・」は以下に反論する証拠により、適法ではなく違法である。 

1.警備会社との随意契約手続きの違法性(財務会計行為自体) 

杉並区へ情報開示請求した資料を検証すると、警備業務の委託契約を随意契約で実施している。自治体に於ける随意契約には要件が必要であり、それが法令にも手続き的にも違法が有ってはならない。しかるに杉並区の本件警備の契約行為(商議行為)には、法令・手続きに逸脱した形跡があるので、この委託契約は違法であり、無効である。 

 その行為は以下に違法性がある。

 (1)地方自治法施行令第167条の二には、「地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることが出来る場合は次に掲げる場合とする・・・・」と規定されている。これの根拠は地方自治法234条の2項「・・・政令で定めるときに該当する場合に限り、これによることができる」としていることにより、この根拠は明確なものである。(条文甲第31  号証参照) 自治体での規則もこの法令の範囲内でなければならない。

   今回原告らは杉並区にたいし、情報公開を求めた公文書(18.10.12決定通知書 18情第89号 甲第27〜30各号証)により財務会計行為の点検をしている。この開示決定には非開示文書はなく、したがって全書類である。

これらによれば、臨時警備業務を随意契約とするための規定違反と手順、確認に不備がある。 

   その一、 警備業務委託(甲第28号証の(1)〜(7))の契約金額は¥1,575,000であり地方自治体に認められた規定額を超過して違法である。

      地方自治法施行令題167条の2―(1)に言う別表第5の6(甲第31号証)でみれば50万円の範囲内を完全に超えている。 従って、随意契約はこの規定では出来ない。 

その二、 随意契約理由を公文書でみると回議用紙(17杉並第40531)につけた「業者指定について」であるが、指定理由について根拠を地方自治法第167条の2第1項5号とする記載があるが、何を指すか具体的に記述がない。(甲第28号証の(1)) 

この5号の「緊急の必要により競争入札に付することができないとき」を引用しているので有れば、それを証明できる証拠が全くないし、説明記載もない。 

       この回議用紙によれば起案日が平成18年8月11日となっており、臨時警備必要日程の前日にしているのははなはだおかしい。緊急性を理由にするための作為と見るべき行為で、本件に関する教育委員会は8月4日時点終わらず、次回開催が約束された(8月12日)わけだから、本当に必要な警備というならもっと早期に商議行為を準備・実施出来たはずである。ちなみに、業者見積もりも8月11日にとっており(シンテイ警備)、これも作為が認められる。よって、この5号の規定による随意契約理由は、日程的にも可能な一般、指名入札であるはずにもかかわらず、随意契約適用の5号濫用である。この様な日程を書類上操作し、緊急性を理由にする随意契約など、公金の支出で許されるべきものではない。官公庁の取得改革、競争原理導入に逆行する、杉並区の実態である。      

なおかつ、同じ警備業務委託の契約実績単価を見ると@¥15,000/人・日であり、これは臨時警備業務の契約と全く同じ単価であり、断じて著しく有利な価格とは言えない。 (甲第29号証の(1)見積書=契約額からの算出) 従って、地方自治法施行令第167条の二、7号にも当てはまらない。

むしろ、なぜ同じ単価の契約なのかに業者の談合の疑念を感じる。または、区商議担当の職員による予定価格漏洩の関与行為も疑われる。

どちらにせよ、この回議は内容を確かめずに印鑑のみ押したものか、意図的処理といわれてもやむを得ないものであり、企業でも自治体でも本来的に通る話ではない。合い見積もりも取っていないことは開示書類にその存在が無く(甲第28号証の(1)〜(7))、意図的かどうかにかかわらずこれらが規定違反であることは明白である。  

その三、 更に前述「業者指定について」に備考として「前回契約を行った極東警備株式会社は委託日時において花火大会等の警備が入っているとの理由に、契約変更については辞退してきた。」とのもっともらしい記載があるが、情報開示書類の中には、これに関する辞退届の書類もなく、何ら証明されていないにもかかわらず「辞退してきた」と記載されている。これは要件不備であり、この決済自体が不備・違法である。 文書審査の省略に関する規定(4杉総経発2055号)にも辞退届の省略はない。(甲第28号証の(1)、32号証の(2))

       もし、このレベルで慣習として決済を通しているとすると、大変ゆゆしき問題で他にもこの様な不備・違法の随意契約が存在する恐れがある。つまり、証明されない、書類も揃っていないのに決済されていることになる。これは、担当部門やそこに影響力のある責任者が恣意的に操作出来る書類であることになってしまう 特に起案日が平成17年8月11日、決済日が平成17年8月11日ということは、臨時警備が翌日の12日からという契約ゆえ、随意契約の唯一の言い訳、法規定への恣意的作為がここでも見られる。 

       以上から、この「本庁舎臨時警備業務委託」の随意契約(相手方業者は公文書によればシンテイ警備株式会社)はどの観点からも要件不備で違法であることから、まさに杉並区 の財務会計行為自体の違法である。

杉並区が他にも同様な規定解釈の濫用があるのではないかと類推、疑われるほどの内容で大問題である。 

 

結語      

 臨時警備業務委託に関わる随意契約は違法な公金支出であり、訴状請求の趣旨のとおりの判決を求める。 

以上

 

添付書類  甲27、28(1)〜(7)、29(1)〜(7)、

30(1)〜(2)、31、32(1)〜(2)各号証


準 備 書 面 (9) 

2007年2月28日 

「つくる会」、自民党タカ派議員らの採択への違法な介入
改定前の教育基本法第10条違反と官製談合防止法違反

(本採択の背景) 

目次

(1)「議員の会」と「つくる会」の誕生
―両者は双子の兄弟(姉妹)関係

(2)「つくる会」及び「議員の会」の圧力による教科書採択の「改善」

(3)地方県議会で「つくる会」の主張に沿った意見書などが次々と可決

       ―中立公正であるべき教育への不当な政治介入

(4)地方自治体の自民党議員と「つくる会」の癒着

(5)安倍晋三・元幹事長、河村文科相、東京都教育長の教科書採択への違法な介入と「つくる会」との癒着

(6)「つくる会」と自民党の提案が文科省方針として教育委員会を拘束

結語

 

はじめに 

準備書面(6)(7)において、教育委員会には採択権限がないことを述べた。仮に採択権限があるとしても、それは形式的な採択権である。「つくる会」が登場するまでは、実質的に教員が選定した教科書を教育委員会は追認して採択していたのである。その採択の実態を強引かつ強力に変えようとした巨大な力があった。それが「つくる会」であり、安倍晋三氏をトップとする自民党のタカ派議員たちであった。

(1)「議員の会」と「つくる会」の誕生
―両者は双子の兄弟(姉妹)関係

1993年、故橋本龍太郎元首相・森喜朗元首相ら自民党幹部が多数参加し「歴史・検討委員会」が結成された。そして、1995年に同委員会が行った「大東亜戦争の総括」は、次の4点であった。 

@   大東亜戦争(アジア太平洋戦争)は侵略戦争ではなく、自存・自衛の戦争であり、アジア解放の戦争であった。

A   南京大虐殺、「慰安婦」などの加害はデッチあげであり、日本は戦争犯罪を犯していない。

B   最近の教科書は、ありもしない侵略や加害を書いているので、新たな「教科書のたたかい」が必要である。

C   このような歴史認識を国民の共通認識、常識にするために、学者を使って国民運動を展開する必要がある。 

この「歴史・検討委員会」のもう一つの役割は、奥野誠亮氏ら戦前・戦中世代の自民党の歴史改ざん主義及び、歪んだ歴史認識を次世代の若手議員たちに継承することであった。そこで結成(1997227日)されたのが、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(後に「若手」を名称から削除する。以下、「議員の会」という。)である。「議員の会」には自民党若手議員107名が参加し、当初、安倍晋三幹事長(当時)が事務局長を務めた。
 先の「歴史・検討委員会」のこの「総括」を受ける形で1996年から、教科書の「従軍慰安婦」や南京大虐殺をはじめとした加害の記述を「反日的・自虐的・暗黒的」と誹謗し、「教科書から削除せよ」という「自由主義史観」研究会やその他の右派等による攻撃が行われた。その中心人物が、西尾幹二氏、藤岡信勝氏、高橋史朗氏、小林よしのり氏らであり、現行教科書を「自虐史観」と攻撃するだけでなく、自分たちで教科書を発行するとして、「新しい歴史教科書をつくる会」を結成(19971月)した。
 このように「議員の会」と「つくる会」は双子の兄弟(姉妹)として共通の目的のために結成され、共に行動してきた。

2001年3月21日、「議員の会」は自民党本部で総会を開き、教科書の「公正な採択を求め、前面で戦っていく」ことなどを方針として決定した。

 

(2)「つくる会」及び「議員の会」の圧力による教科書採択の「改善」                  

 「つくる会」登場以前は、教科書採択は実質的に学校現場の教員の意見を尊重し、教育委員会は教員が選択した教科書を追認して採択していた。ところが「つくる会」は「議員の会」と結託し、自民党総がかりで扶桑社版教科書を採択させるために文部省その他に圧力をかけた。(「議員の会」は文部省、内閣外政審議室、歴史学者、中曽根弘文文部大臣、教科書会社、大学入試センター、河野官房長官(当時)などに圧力をかけた―『歴史教科書への疑問』「議員の会」編・展転社1997)、その結果、文科省は「つくる会」及び「議員の会」の圧力によって、または癒着によって、扶桑社版教科書を検定に合格させ、同会の望むとおりに教科書採択制度を「改善」してきた。

 つまり文科省は2001年度の採択後、文科省は教科用図書検定調査審議会に対し、検定・採択制度の改善に関する検討を諮問、同審議会は同年7月31日、検討のまとめを公表し、それを受けて文科省は「教科書制度の改善について」と題する通知を発した。その通知には「つくる会」の思惑が少なからず盛り込まれたのである。(別途準備書面で詳しく述べる)

 

(3)地方県議会で「つくる会」の主張に沿った意見書などが次々と可決

       ―中立公正であるべき教育への不当な政治介入 

2005年の教科書採択の年に向かう数年、とくに2003年〜05年にかけて、神奈川、千葉、埼玉、茨城、石川、新潟、和歌山、滋賀など多くの地方県議会で「教科書採択制度の改善を求める提案」や「教科書検定制度見直しの意見書」が次々と可決され、文科大臣などに送付された。これは県議会の多数を占める自民党議員などによるものである。自民党が党を挙げて「つくる会」をバックアップし2005年の採択に取り組み始めたのである。

例えば茨城県の場合は、2003年9月26日に本会議において、自民党県議が提出した「教科書検定制度の見直しを求める意見書」が可決され、県議会議長名で内閣総理大臣、内閣官房長官、文部科学大臣、衆議院議長、参議院議長に送付された。【甲32号証】また、大洗町では「大洗町の教育を考える会」による請願を受け、2003年12月25日に大洗町 議会に採択の改善を求める意見書が提出され、2004年3月22日に県議会はこれを採択した。その間、大洗町では2004年2月28日に大洗町 主催で「つくる会」名誉会長・西尾幹二氏(扶桑社版執筆者)の講演会が開催された。さらに同年12月16日、自民党茨城県連が県教委に対し「自国を愛する姿勢が最も表れている教科書を選ぶよう」要望している。【甲32号証】

埼玉県でも、2004年9月8日、40年ぶりに教科書採択基準見直しに入り、上田知事が翌年度までに見直す意向を明言。12月16日には「埼玉県議会教科書を考える議員連盟」が発足し、設立総会で、「つくる会」副会長・藤岡信勝氏(扶桑社版代表執筆者)が記念講演を行った。1221日には、扶桑社版の元監修者である高橋史郎教授が埼玉県教育委員に議会で任命された。 

改定前の教育基本法は戦前の国家主義的教育を反省し、二度とこれを繰り返さないという理念に基づいて制定されたものである。文科省は「教育委員会制度について」の「教育委員会制度の意義」の中で「個人の精神的な価値の形成を目指して行われる教育においては、その内容は、中立公正であることは極めて重要。このため、教育行政の執行に当たっても、個人的な価値判断や特定の党派的影響力から中立性を確保することが必要」としている。

これら県議会の行動や高橋司郎氏を埼玉県教育委員に任命することなどは言うまでもなく、教育への不当な介入を禁じる改定前の教育基本法第10条に違反している。

 

(4)地方自治体の自民党議員と「つくる会」の癒着 

しかもその間、自民党・県議会議員の会などでは、扶桑社版の代表執筆者である、「つくる会」の会長や副会長が講演活動や勉強会が実施されている。従来、文科省の指導では教科書の編著作者が教科書採択に関与することは禁止されている。特定教科書の執筆者が県議会議員に向けて講演会や勉強会を開くことは、宣伝活動であり、採択の公平性を欠くものである。また逆に、県議会議員が特定教科書の執筆者による教科書勉強会や講演会に参加するのも、採択の公正に違反するものである。

しかし、「つくる会」主催による講演活動や勉強会は、地方自治体の自民党・議会議員の間で実際に公然と行われており、何よりこのことは地方自治体の自民党議員と「つくる会」の癒着を示している。このことは、もし扶桑社以外の教科書会社の教科書執筆者が県議会などで講演することが可能かどうかを想像すればすぐにわかる。「議員の会」や自民党と癒着して権力を持つ「つくる会」(=扶桑社)だからこんな常識外れのことが可能なのであり、明らかに官製談合防止法違反である。

 

(5)安倍晋三・元幹事長、河村文科相、東京都教育長の教科書採択への違法な介入と「つくる会」との癒着 

2004年6月14日、「議員の会」(古屋圭司会長)主催、「教科書改善協議会」後援、自民党青年局・女性局協力により、「歴史教科書はこれでよいのか!」と銘打ち、「国会議員・地方議員合同シンポジウム」が東京で開催された。

シンポジウムは、「つくる会」が主張する教科書改善を進めるために開催されたもので、自民党は安倍晋三幹事長名で歴史教育の重要性等の通達を発信している。パネリストは、横山洋吉東京都教育長、藤岡信勝「つくる会」副会長、西川京子・自民党女性局長、城内実・衆議院議員、清水清一・北海道議員の6名。安倍幹事長、河村文科相は来賓として応援挨拶を行った。【甲 33号証】

扶桑社版の代表執筆者以外、他のどこの教科書出版社も編著者も出席していない教科書に関するシンポジウムに、東京都教育長が出席し、安倍氏と文科相が応援挨拶する。このようなことが許されていいのだろうか。安倍幹事長、河村文科相、東京都教育長のこのような行為は、採択の公平性を守っているとはいえず、教科書採択への違法な介入で改定前の教育基本法10条違反であり、官製談合防止法違反である。同時にこのことは、安倍幹事長・河村文科相・東京都教育長と、「つくる会」が切っても切れない関係、どちらがどちらであるかも分からなくなるほど表裏一体の癒着関係にあることを示している。

 

(6)「つくる会」と自民党の提案が文科省方針として教育委員会を拘束 

 2004年6月15日、西尾幹二・「つくる会」名誉会長は、河村文科相と会見し、「教科書採択制度の改善に向けた提案」について直接要請した。同提案は、(1)教育委員会の権限と責任を明確にするため、現状の複雑かつ重層的な採択システムを抜本的に整理すること(2)文科省は教科書研究の基本を明らかにし、指導を強化すること(3)外部からの不当な圧力を排除するため、文科省及び各教育委員会は必要な方策をとること の三本柱からなるものであった。会見には、平沼赳夫、衛藤晟一両衆議院議員も同席した。【甲34号証の1】

次いで、2005年1月18日、自民党は2005年の運動方針案を党大会で採択したが、この中で教育基本法改正とともに「教科書の検定・採択の適正化」「偏った教科書の是正」を重点課題として挙げ、3月にはこれを盛り込んだ教育改革のパンフレットを作成している。【甲34号証の2

3月2日、「議員の会」は総会において、文科省に対し教科書採択の改善を求める提案を提出。この場に出席していた文科省幹部は「教育委員会の採択権限を明確化し」、「市の単独の採択地区への見直し(つまり採択地区の細分化)に努め」、「わが国の歴史に対する愛情を深める『目標』を重視する」方針を明らかにした。【甲35号証】

 

結語 

 「つくる会」は「議員の会」と双子の兄弟(姉妹)関係にあり、両者は結託して文科省などに圧力をかけ、扶桑社版教科書を教科書検定に合格させ、採択制度の「改善」をはかってきた。「つくる会」は扶桑社と一体である。そこに他の教科書会社の入るすきは全くない。これは強大な政治権力をもって、教育に介入すること以外の何ものでもなく、改定前の教育基本法10条に違反する。またこれは教科書をめぐる巨大な官製談合である。

 そしてこれらの巨大な動きが杉並区 の教科書採択にも大きな影響を及ぼした。このことについては準備書面(10)で述べる。

以上

添付書類        甲32号証〜35号証      各1通


準 備 書 面 (10) 

2007年2月28日

 

杉並区における教科書採択要綱・規則の恣意的「改定」は 

改定前の教育基本法第10条違反

及び入札談合等関与行為防止法違反

 

目次 

 1.採択要綱・規則「改定」の事実経過

 (1)H12要綱からH16要綱への「改定」

     ―「絞り込み」を規定した手引きは採択後まで時限秘

  (2)H16要綱からH16規則への格上げ「改定」

      ―たった1か月でまた「改定」なぜ? (教育委員会の形式的な審議)

  (3)議会に報告されなかった「改定」

      ―議員の質問にも答えなかったことは故意に隠したことであり

「公正」とは言えない 

 2.採択規則・要綱の「改定」による内容の変化と「改定」の趣旨

  (1)区民意見の取り扱いの軽視

  (2)「選定審議会」の廃止

  (3)「選定審議会」の廃止による報告書の軽視

  (4)調査の範囲

     ―扶桑社版を審議のテーブルにのせるために「絞り込み」廃止

全教科書を調査

  (5)教員意見の軽視

  (6)学習指導要領の重視 

 3.「改定」は「つくる会」、「議員の会」、自民党の要求かつ山田区長の要求
  (1)「提案」の「2.採択地区の適正規模化 及び 3.市町村教育委員会と
     採択地区との関係の明確」について
  (2)「提案」の「4.調査研究のための資料の充実」について

 (3)「提案」の「5.教育委員の権限」について
 (4)「提案」の「6.静謐な採択環境の確保」について

 結語

 

1.採択要綱・規則「改定」の事実経過 

平成122000)年3月31日に制定された「杉並区 立中学校教科用図書採択要綱」(以下H12要綱という)は平成162004)年4月27日に廃止され、同日「杉並区 立小・中学校学科用図書調査事務処理要綱」(以下H16要綱という)が制定された。そして同要綱が制定されて1か月も経たない5月26日に、「杉並区 立学校教科用図書の採択に関する規則」(以下H16規則という)が制定され、同日、H16要綱は廃止された。また、中学校教科書採択に関しては2005年4月11日に「杉並区 立中学校教科用図書調査事務処理要綱」(現行)が制定され、同日、「杉並区 立中学校教科用図書調査事務に関する手引き」(現行)も制定された。

 

(1)H12要綱からH16要綱への「改定」

     ―「絞り込み」を規定した手引きは採択後まで時限秘 

まず、H12要綱は、2000H12)年度にそれまで東京都教育委員会にあった(とされる―原告らは採択権限は教育委員会にはないとする立場である。準備書面(6)(7)参照)教科書採択の権限が、杉並区 教育委員会(以下区教委という)に降ろされたことによって作られた。これ以前には区教委に採択要綱はなかった。

H16要綱の制定は2004H16)年428日に行われた第6回教育委員会で報告された。(要綱の改廃は教育長の権限であるので、教育委員会では報告するのみであるが、ここで述べられた教育委員の意見が要綱に反映されることもある)。指導室長はこの要綱の制定の趣旨を「より適正に、調査研究に基づいた採択が行われるように」であると述べた。教育委員長から「区民アンケート集計」について、「枠組として入れていくのが常識」であるという意見が出、指導室長は「区民」という枠を1項目設けると答えた。また、宮坂委員が質問した「絞込み」(教員が調査、報告する教科書は全部ではなく、ふさわしいもの2種類以上とされていたことをいう)を防ぐためにすべての教科書を調査することについては、別途定める「調査事務処理に関する手引き」に記載するが、その手引きは採択終了まで時限秘になると述べている。(下線は原告による)。【甲36号証】なぜ「時限秘」にする必要があったのか、被告に釈明を求める。

 

 (2)H16要綱からH16規則への格上げ「改定」

      ―たった1ヶ月でまた「改定」なぜ? (教育委員会の形式的な審議) 

 H16規則は2004H16)5月26日に行われた第8回教育委員会で議案として提案され、審議、一部修正で可決された。要綱を規則に格上げする理由については教育長が、「採択の枠組みを教育長限りではなく、教育委員会として審議決定をし、交付という形で区民の皆さまに報告する。という方が自治基本条例の趣旨にもそぐうということを考えまして、今般、改めて「規則」で制定するという提案をさせていただくことにした」と述べた。内容的にも「第6回教育委員会で各委員から出されたご意見については、最大限尊重してくみ上げる」とし、「特に支障はない」としている。

 委員の意見としては、「趣旨は大体前とそんなに違いませんので、私は結構だと思います」(大藏委員)などで、規則の内容に関わる議論は全くされず、一部修正(事務的なこと)可決された。(1)の要綱の「改正」は報告事項だったが、要綱から規則への「改正」は教育委員会の議決を必要とする。奇しくも教育長は提案理由として、「採択の枠組みを教育長限りではなく、教育委員会として審議決定をし、交付という形で区民の皆さまに報告する。という方が自治基本条例の趣旨にもそぐう」と述べたが、これで「審議決定」したと言えるのであろうか。これこそが「形式的決定」ではないのか? 以下延べるように重大な意味を持つ「改定」であったのに、教育委員会は事務方の作成した規則(案)の内容をほとんど審議することなく、形式的に決定したのである。それとも事前に秘密会議があって、そこで審議済みだったのだろうか。

教育長は最後に、修正可決されたので、直ちに公布手続きを取ることを前提に、具体的な調査委員会に関する事項等々、要綱、事務の手引きを本日委員会終了後策定すると述べ、「併せて区民の皆さんに公表いたします」と述べた。【甲37号証】教育長は要綱、手引きは「終了後策定する」と述べたのに、H16規則の公布と共に(教育委員会当日)公布された。このことは教育委員会で規則(案)の内容が変更される可能性が全くないことを見込んで要綱、手引きをすでに作成していたということであり、教育委員会の決定が形式的であることを象徴している。

 

 (3)議会に報告されなかった「改定」

     ―議員の質問にも答えなかったことは故意に隠したことであり

「公正」とは言えない 

 ところが、この規則の制定は「区民の皆さんに公表」どころか、区議会常任委員会である文教委員会でも報告されなかった。2005年5月17日の文教委員会で、新城せつこ議員の「5月18日のやりとり(前年である2004年5月18日の文教委員会)の中で、他の委員から、採択要綱についても示してほしいという要望が出されているんですね。区はそのときに、教科用図書の採択事務に関する規則というものを・・略・・526日に教育委員会で諮るので、その上でご報告申し上げたいと考えておりますというふうに答弁しているんですね。その後いつ報告をされたのか、・・・お答え下さい」という質問に対して、指導室長は「本委員会では、規則の制定につきましてはご報告はしていなかったと記憶しております」と答えた。

 さらに庶務課長は「5月26日ですか、規則制定という形で、最終的には、当該年度それに基づいて教科書採択を進めて、採択結果が出たときに報告をしたという経過だと存じてございます」と答えた。つまり、報告は採択結果が出てからであったのである。また、この規則に基づいて作成された要綱、手引きの類も採択の終る8月末日まで時限秘であると指導室長は答弁した。

 また、指導室長は「昨年度も要綱はお示ししていなかったと思います」と述べており、H2要綱からH16要綱への「改定」についての報告もなかったことを明らかにしている。(下線は原告による)【甲38号証】

 このようにこれらの要綱・規則の「改定」は区議会にも報告されておらず、いわば秘密裏に行われた。議員から質問があったにも関わらず、答弁しなかったことは故意に隠したとも受け取れる。これではとても公正だったとは言えず、「適正かつ公正な採択につとめること」と規定している採択に関する規則に違反する。

 

2採択規則・要綱の「改定」による内容の変化と「改定」の趣旨 

以上3つの要綱、規則の「改定」による内容の変化を項目別に見てみることにする。なぜ「改定」したばかりの要綱を1か月も経たずに再び「改定」したのだろうか。【H12要綱及びH16要綱・甲39号証12 H16規則は乙2号証】

 

(1)区民意見の取り扱いの軽視

   H12要綱―「可能な限り参考にすること」

   H16要綱―「区民の意見を聴取すること」

   H16規則―「区民意見の把握に努めること」

   (H17杉並区 立中学校教科用図書調査事務に関する手引き―「区民等の意見を参考にしながら」)

     区民意見の取り扱いは「可能な限り参考に」から「聴取」へそして、「把握」へと、明らかに重みが下がっている。最終的にH12要綱にあった「可能な限り」という文言がH17手引きでは消えた。区民意見の軽視である。

 

2)「選定審議会」の廃止 

   H12要綱―「教科用図書選定審議会

   H16要綱―「教科用図書選定調査委員会」

   H16規則―「教科書調査委員会」

    H12要綱では報告書等の取りまとめ機関は「選定審議会」であった。選定審議会の答申を尊重することを前提として、教育委員会が諮問するための機関である。ところが、H16要綱になると「選定調査委員会」という名称になり、1ヵ月後のH16規則では「選定」という文言もなくなり、「教科書調査委員会」となった。

    義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律第3章「採択」では「(教科用図書選定審議会)第11条 都道府県の教育委員会は、前条の規定により指導、助言又は援助を行おうとするときは、あらかじめ教科用図書選定審議会(以下「選定審議会」という)の意見をきかなければならない」と規定している。そして同施行令で、選定審議会の委員は校長、教員、学校教育に専門的知識を有する者、教育に関し学識経験を有する者らとし、教育専門家の評価と判断を尊重することを義務付けている。

教育委員会が「選定審議会」を「調査委員会」と変更したことは、無償措置法に規定されている都道府県教育委員会の選定審議会の位置づけから逸脱し、「選定審議会」を廃止したに等しいものであり、重大な不法行為である。

 

(3)「選定審議会」の廃止による報告書の軽視 

    「選定審議会」が廃止され、「調査委員会」となったことで、採択におけるその役割は非常に軽いものとなった。H12要綱では「21職務」に「審議会は、委員会の諮問を受け」「種目別調査部会」及び「各学校からの調査報告に基づき協議するとともに区民の意見等を集約し、委員会に答申する」とあった。H6要綱ではこの「職務」という項目はなくなり、「(調査及び報告)第4条」に「調査委員会は、・・種目別研究部会からの調査報告、小・中学校からの調査報告及び・・区民からの意見に基づき、協議を行い、教科書の採択に必要な調査をまとめ、教育長に報告する」に変わった。そしてH16規則では、(調査及び報告)第4条で「調査委員会は、指定された期日までに、採択の対象となるすべての教科書について次に掲げる事項に関する調査を行い、その結果を教育委員会に報告しなければならない」に変わった。

    「選定審議会」だった時には尊重されることを前提に「答申」したが、「調査委員会」では単に「報告する」に変わった。また、H16規則では、それまであった学校からの「報告書」並びに「区民意見」に「基づき協議を行う」という文言が消え、明らかに学校からの報告書ならびに区民意見の軽視が明らかとなった。

 

(4)調査の範囲

     ―扶桑社版を審議のテーブルにのせるために「絞り込み」廃止

全教科書を調査 

   H12要綱―杉並区 立中学校教科用図書の採択要綱に関する細目第二条(1)において「種目ごとに2種類以上の教科書について適正な資料(以下、「調査研究報告書」という)を作成し」

   H16要綱―文言なし

   H16規則―「すべての教科書について調査を行い」

    (H17手引き 3に「採択の対象となる全教科書について、調査を行い・・・報告する」)

    H12要綱では、「(調査部会)第五条21)職務」で「調査部会は、種目ごとに全ての教科用図書を調査し、指定の期日までに審議会に文書をもって報告する」とある。しかし上記「細目」に「種目ごとに2種類以上の教科書について適正な資料を作成し」と定め、いわゆる「絞り込み」を認めている。しかし、H16規則では絞り込みを廃止し、手引きに「全教科書について調査を行い・・報告する」と定めた。

    選定審議会は調査員に調査・研究を行わせ、その結果を取りまとめ、「選定」するのが職務である。「選定」するとは「絞り込む」ことに他ならない。調査員は絞り込んではいけないとしても、選定審議会では絞り込むのが当然である。そうしないと教育委員も全部の教科書(400冊以上)を調べることになり、準備書面(7)「実態的採択権限」で述べたように到底不可能だからである。ゆえに、教育委員は選定審議会で絞り込んだ答申を尊重して審議することが採択の前提である。 

      ところで、2000H12)年、「つくる会」は「教科書採択にあたって絞り込みや学校票方式を改め、採択は学習指導要領の目標に基づくことなどを求めた教科書制度改善の請願」を「全国的に展開」した。【甲40号証】宮城県議会は同年6月、「新しい歴史教科書をつくる会宮城県支部」の出した請願「宮城県における小・中学校教科書採択制度の改善に関することについて」を採択した。【甲41号証】その後、同様の請願が33の道県議会で採択された。これはもちろん特定の教科書(扶桑社版教科書)の採択を推進するための請願であり、このような意図をもった請願を採択することは、「公正で適正な採択」を定めているはずの各道県の採択の規則等に違反する。 

    宮坂委員は第6回教育委員会でも第8回教育委員会でも、「教科書を選ばないで、すべての教科書について調査をする」ことにこだわっていたが、宮坂委員のこの要求は、扶桑社版を採択させようとする「つくる会」の要求であった。なぜ「つくる会」はこのことにこだわるのだろうか。それは、「種目ごとに2種類以上の教科書について」調査するままだと、間違い・欠陥の多い扶桑社版は評価が低いためその2種類に選ばれず、審議のテーブルにものらないからである。だから、「つくる会」は「すべての教科書について調査する」ことにこれほどこだわり、請願を出して、採択規則や要綱を変えさせたのである。

 

(5)教員意見の軽視 

   H12要綱―「審議に必要な資料を得るため、各学校にすべての教科用図書についての調査研究を依頼する」

   H16要綱―「校長は・・・所属教員の意見を聴き、教科書の調査研究を行い、調査結果を調査委員会に報告する」

   H16規則―「教員の意見を聴き」の文言が消えている。

         H17杉並区 立中学校教科用図書調査事務処理要綱第10条に「中学校における調査は、当該中学校の校長、副校長、主幹、および教諭により行う」

    これについては、指摘するまでもないであろう。教員意見は聴かなくてもいいとしたものである。

 

(6)学習指導要領の重視(後に説明) 

   H12要綱―記述なし

   H16要綱―「学習指導要領(平成101214日)に基づくこと」

   H16規則―なしだが、H17「杉並区 立中学校教科用図書調査事務に関する手引き」前文に「ただし、調査にあたっては中学校学習指導要領(平成10年告示)の趣旨を踏まえるものとする」 

●ここでわかりやすく「改定」の趣旨を箇条書きにしておく。

 (1)区民意見の軽視(本件採択では無視)

 (2)「選定審議会」の廃止

 (3)「選定審議会」の廃止による報告書の軽視

 (4)扶桑社版を採択候補に残すための「絞り込み」廃止

 (5)教員意見の軽視(本件採択では無視)

 (6)学習指導要領の重視 

 この(1)から(6)の各「改定」は、特定の教科書(扶桑社版教科書)の採択を推進するための「改定」であり、教科書官製談合における巧妙な意図的関与行為に当たる。

 

3.「改定」は「つくる会」、「議員の会」、自民党の要求かつ山田区長の要求 

準備書面(9)で述べたように、「つくる会」、「議員の会」、自民党は文科省などに圧力をかけ、扶桑社版教科書を採択させるべく、採択環境を整えていった。

2005年3月2日、「議員の会」は総会に文部省幹部、山中伸一審議官と片山純一教科書課長を呼び、文科省に対して、6項目からなる「教科書採択手続きの改善に関する提案」を提出した。【甲41号証】杉並区 の要綱・規則の「改定」に重大な関わりを持つものであるので、次に掲げる。 

教科書採択手続きの改善に関する提案 

   1.初中局長通知の発出 

  平成14年8月30日付け初中局長通知で述べられた教科書採択手続きの改善の趣旨を一層徹底させるため、新たな通知を都道府県教育委員会あてに発すること。その内容の概略は以下の通りとすること。 

   2.採択地区の適正規模化 

  教育委員会の採択権限を明確にするため、市町村合併の進展状況をも踏まえ、市を単独の採択地区とするよう「不断の見直し」に務めること。 

 3.市町村教育委員会と採択地区との関係の明確化 

  共同採択地区については、「ルールを定め、予め公表する」ことを徹底すること。 

 4.調査研究のための資料の充実 

  都道府県教委が作成する選定資料については、学習指導要領に示された「目標」及びそれに対応して示された「内容」に即して、具体的な観点票を作成し、それに基づいて各教科書の違いが簡潔・明瞭に分かるものにすること。従来しばしば見受けられた、明瞭な違いがあらわれない調査項目、抹消的な要素に関わる調査項目については見直し、選定資料が「より参考になるもの」とすること。 

 5.教育委員の権限 

  教科書採択の権限はあくまで教育委員にあることをさらに明瞭にするため、下部機関による選定資料はあくまで教育委員の参考資料に過ぎず、教育委員はみずから教科書の見本本を精査して判断し、その決定は選定資料の評価に拘束されるものではないこと。 

   6.静謐な採択環境の確保 

  地教行法に規定する会議公開の原則にもかかわらず、静謐な採択環境を確保するため、教科書採択を行う教育委員会の会議は非公開とすること。不法・不当な妨害や干渉を排除するため、都道府県ごとに、すべての採択地区の採択決定の日を同一とすること。

                             引用ここまで

 

この「提案」はすべての項目が扶桑社版採択を有利に導くためのものである。裁判長らは教科書問題の専門家ではないので、項目別に説明を加える。

(1)「提案」の「2.採択地区の適正規模化 及び 3.市町村教育委員会と採択地区との関係の明確」について

杉並区は区で一つの採択地区となっているが、全国にはいくつかの市町村が集まって一つの採択地区とされているところがあり、その場合は「採択協議会」を作って、そこで採択している。
 栃木県下都賀地区は小山市栃木市など2市8町で構成されている。2001年度の採択で、栃木県下都賀地区採択協議会では調査段階で評価の低かった扶桑社版が、一部委員の強硬な意見に引きずられて内定した。しかし、最終的な採択権のある各市町の教育委員会では扶桑社版に対する反対意見が相次ぎ、2市7町が採択協議会と反対の結論を出していた。そのため、再協議し、その結果、一転不採択を決めたのである。
 2005年の採択では、茨城県大洗町 が町の教育委員会で扶桑社版歴史教科書を採択したが、採択地区の協議会では他社の教科書に決まり、大洗町 もその結果に従うこととなった。「つくる会」は悔しくてたまらなかったに違いない。
 このようにいくつかの市町村が集まって採択地区を構成していると、一つの教育委員会では決められず、大勢の教育委員が関わるので扶桑社版が採択される確率が下がるのである。そのため、「つくる会」は「提案」2、3によって、それを防ごうとしたのである。

(2)「提案」の「4.調査研究のための資料の充実」について

「つくる会」の主張する「我が国の文化と伝統」や「愛国心」につながる表現が、学習指導要領には盛り込まれている。「議員の会」を初めとする自民党右派勢力は「我が国の文化と伝統」「愛国心」という文言が大好きで、なんとかして法律に入れ込みたいと躍起になっているが、戦後の日本でそれはなかなか実現しないことであった。とうとう昨年12月に教育基本法は改悪されてしまったが、政府はその前にまず変えやすい学習指導要領を変えていたのである。(平成101214日文部省告示176号により、第二節 社会 第1 目標「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め」という文言を入れた)。
 学習指導要領には「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め」だけが書いてあるわけではないのに、「つくる会」「議員の会」らはここだけを取り上げて扶桑社版が良いとしているのである。 

(3)「提案」の「5.教育委員の権限」について

区民意見や教員意見を聞いていたら扶桑社版が採択できないので、これらの意見は無視し、明確に教育委員に権限があるとして、扶桑社版を採択したいのである。教育委員は首長の任命によるので、たった一人の首長の思想によってその採択地区に住む子どもたちが使う教科書が決まってしまうことになる。いくら選挙で選ばれたとはいえ、市民の意見を全く聞かず、一人の首長の思想によって子どもたちの未来に関わる決定がなされていいはずがない。まして教科書は税金で購入する物である。採択を教育委員の権限とし、首長が自らの思想にあった教育委員を任命するということは、採択に関係する経費の公金支出等に首長が恣意的に関与することになるので、いわゆる官製談合防止法に違反する不法行為である。 

(4)「提案」の「6.静謐な採択環境の確保」について

2001年度の採択の際、市民が扶桑社版採択に反対して意見を言ったり集会を開いたりしたことが、採択の妨げになったとして、市民を排除し、非民主的に独裁的に採択しようという趣旨である。
 教科書採択は「適正かつ公正」に行うと言いながら、「つくる会」、「議員の会」、自民党の要求は聞き入れて、採択制度を「改善」し、一方では市民の意見を排除するために「静謐な採択環境の確保」などと言っているのだから、これは「政治」でもなんでもないただの自分勝手である。この国に「民主主義」はない。主権者としてこんな横暴を許しておくわけにはいかない。

結語

 ここまで見てきたように、杉並区 の教科書採択に関わる要綱・規則の「改定」は「つくる会」、「議員の会」、自民党の要求に応え、扶桑社版教科書採択の環境づくりとして行われたものであった。なぜ杉並区 が「つくる会」らの要求に応えたのか。教育委員会事務局の職員全員が「つくる会」支持者だったのだろうか。そして、扶桑社版教科書を杉並区 で採択させようとして、このようなだいそれたことを思いつき、全員一致して実行したのだろうか。普通に考えればそんなことはありえないとわかる。準備書面(5)で明らかにしたように山田宏区長が「つくる会」の熱狂的な支持者で、扶桑社版教科書採択への明確な意思を持っていたからできたことなのである。

つまり、これらの要綱・規則の「改定」は教育への政治の介入を禁じた改定前の教育基本法第10条に違反する違法行為であり、かつ官製談合の明確な関与行為である。再度強調するが、このようなことが杉並区 の他の物品調達・工事発注で一企業のためになされたら、法令違反はもちろんのこと、区長の政治生命はないはずだ。「教科書採択」というからくりにごまかされてはならない。

ゆえに、本採択に関わる公金支出は違法、無効である。

以上

添付書類   甲36号証〜42号証(ただし41号証は準備中)   各1通


 

準 備 書 面 (11) 

2007年2月28日

 

扶桑社版歴史教科書採択は実は内定していた?

継続審議は事前に決まっていた

扶桑社版公民の採択はないと決まっていた

 

目次 

 1.泉南中の書き換えはなぜ7月26日になってから命令されたのか

― ヒアリングも終えてから書き換え命令

 2.審議の継続を提案した大蔵委員は最も教科書を読み込んでいた

― 審議は尽くされ大阪書籍に決まる寸前だった

 3.ピエロ役をさせられた?教育長

― あの「取り乱し」の原因は?  

 4.委員長の怪

     ― まとめようとしない委員長

5.「つくる会」藤岡信勝氏の動きの不可解さ  

― 採択結果を事前に知っていたからこうした

. 政治的な判断によって採択されなかった扶桑社版公民教科書

 

はじめに

 2005年8月杉並区教育委員会による扶桑社版歴史教科書採択には実に不思議な点が多々ある。それらをつなぎ合わせてみると、7月後半には歴史教科書の採択が内定していたのではないかと疑われるのである。物的証拠はないが、状況証拠は多々ある。それらをここでつなぎ合わせてみることにする。

 

1.泉南中の書き換えはなぜ7月26日になってから命令されたのか
―ヒアリングも終えてから書き換え命令

 2005年6月21日に各中学校から教科書調査委員会(以下調査委員会という)に報告書が提出された。調査委員会は5回の会議を経て、それらおよび区民意見をまとめた調査委員会報告書を作成し、7月13日、杉並区 教育委員会(以下区教委という)に提出した。区教委は7月21日に教科別に調査委員を呼んでヒアリングを行った。
 各中学校からの報告書が調査委員会に提出されたのは6月21日、報告書がまとめられ、ヒアリングも終えた7月26日になって、書き換えさせられたというのはいかにも不自然である。指導室長らはいろいろと理由をつけてはいるが、その理由はとってつけたような理由で、納得できない点が多々ある。(後に準備書面で述べる)。ちょうどこの頃、巷には「扶桑社版歴史の採択が秘密会議で内定した」とのうわさが流れた。火のないところに煙は立たず。しかも、そのうわさの出所は1ヶ所ではない。この頃、扶桑社版歴史採択が内定したので、はっきりと批判的な記述(「適切でない」)をあわてて書き換えさせたのではないかとの疑問が湧く。

 

2.審議の継続を提案した大蔵委員は最も教科書を読み込んでいた
―審議は尽くされ大阪書籍に決まる寸前だった

歴史教科書採択については8月4日の教育委員会で、歴史1科目だけで全体の審議の4割を費やした。特に大藏委員は歴史教科書についての持論を、微に入り細にわたって議事録にして16.5ページ分述べている。(全体の51.2%)【乙8号証】
 そしてベストではないが、次善として全員が一致してまとまれる大阪書籍に決まりそうになった時、この大藏委員が「もっと教科書を読み込みたい」と審議の継続を求め、委員長が「慎重にしましょう」とそれに応じた。しかし、5人の教育委員の中で最も歴史教科書を読み込む必要がなさそうなのは彼であることは疑いがない。いったいなぜ大蔵委員は「もっと読み込みたい」などとしらじらしいことを言い出したのか。この疑問は4日の教育委員会を傍聴していた人間なら誰でも感じたことであろう。
 そして審議の結果、大阪書籍にまとまりそうになっていたのだから、「社会の教科書については、同日の委員会限りでは充分な審議を尽くせないため、継続審議とした」という被告の述べる理由は、全くあてはまらない。

 

.ピエロ役をさせられた?教育長
―あの「取り乱し」の原因は?

今までの慣例では教科書採択は多数決ではなく、5人の教育委員が「おおむねよしとする」教科書に合議制で決まっていた。しかし、扶桑社版歴史に関しては、12日の審議で3:2の多数決で採択した。同じ多数決にするのであれば、4日にもできたはずである。確かに4日には納冨教育長の態度がはっきりせず、評価する教科書も「帝国書院―大阪書籍―扶桑社」と揺れ動き、「どうでもいい。私の中で消化できない」という混乱した状態にまで陥っていた。それは重責のある教育長として見苦しいほどの混乱であった。
 ここで、
日本会議首都圏地方議員懇談会の「草莽崛起」というホームページについて延べる。2005年8月4日付で「杉並区 での教科書採択について下記の情報が入りましたのでご報告いたします」として、傍聴報告がなされた。この中に「裏話(極秘):委員会は今日の決定を先送りするために、態と教育長にピエロ役を命じたと思われる。9日から12日まで韓国との交流行事があり、採択でもめることによるドタキャンの社会的影響(山田区長にとってマイナス要素)を回避するべく政治的判断がなされたのではないか」とあった。(この部分はなぜか数日後に削除された)。【甲43号証】
 これを読んで「ああそうだったのか」と納得できるのは原告らだけではないだろう。納冨教育長はピエロ役を命じられていたのだとすれば、あの混乱状態が一気に理解できるのである。おそらく単純ではなかったであろう彼の心中を察すると、なぜあのように自暴自棄になったかがわかるのである。

4.委員長の怪
     
―まとめようとしない委員長

 司会をしていた委員長が社会科の審議で、先にやるはずの地理を後回しにして歴史を先に審議したことも不自然である。委員長は「地理的分野につきましては、地図の教科書との関連性というものが深いことから、歴史的分野、公民的分野の次に審議したい」と理由を述べた。一見もっともらしく思えるが、2001年度の採択時には地理を先にやった。【甲44号証】なぜ今回地理をぬかしたのか? 社会科全部を継続審議とすることがあらかじめ決まっていたから、歴史を先に審議したのだと考えると謎が解ける。
 また大蔵委員から継続審議の提案があったのは、大阪書籍にまとまりそうになっていた時で、いかにも唐突であった。他教科の審議では、委員全員がほぼ大阪書籍でまとまりそうな流れになれば、委員長が「では大阪書籍でどうでしょう」とまとめるタイミングである。傍聴者は審議の流れを聞いていて、もう少しで大阪書籍に決まると思い、隣の人と握手する寸前だったのである。しかし、委員長はまとめようとはしなかった。不思議である。これも扶桑社版に内定しており、かつ継続審議が決まっていたからだと考えると納得がいく。

 

5.「つくる会」藤岡信勝氏の動きの不可解さ
―採択結果を事前に知っていたからこうした

 最も不可解なのは12日の傍聴に来ていた「つくる会」副会長であった藤岡信勝氏の動きである。藤岡氏はなぜ4日には傍聴に来なかったのか。答は一つである。この日、採択はないと知っていたのである。そして藤岡氏は12日、歴史の採択が扶桑社に決まると、次の公民の審議を待たずにさっさと退席し、外で支援者らの万歳三唱に加わった。公民は採択されないことを事前に知っていたのである。そうでなければ、公民はどうなるだろうかと、興味を持ち続け、傍聴を続けたに違いないからである。

 

. 政治的な判断によって採択されなかった扶桑社版公民教科書

このように扶桑社版公民教科書の不採択は事前に決まっていた。歴史では16.5ページ分もしゃべった大藏委員が、公民では扶桑社版採択を初めからほとんど捨てていた。公民の採択では、扶桑社版はほとんど無視されたのである。
 扶桑社版歴史教科書と公民教科書とは同じ歴史観、国家観のもとに作られた教科書なのだから、片方を熱心に推した人がもう片方を推さないとはおかしな話である。事前に決まっていなければ、そして教育委員会での審議によっては採択の可能性があるならば、大藏委員、宮坂委員はもっと熱心に推したはずである。

なぜ公民教科書は扶桑社版が採択されなかったのか? 何らかの政治的な判断によってそうなったのであろうが、謎である。

 

結語

これらの不可解なできごと、不思議な発言などをつなぎあわせて推理してみると、事前に秘密会議が開かれ、そこで歴史教科書の採択と公民教科書の不採択が決まっていたことが示唆される。また、継続審議が事前に決まっていたことも示唆されている。
 これらには物的証拠はなく、推理であるが、これほどの状況証拠がそろっていることでふつふつと疑問が湧いてくるのではないだろうか。もとより、山田区長や「つくる会」がこれらの証拠を残すようなへまな真似をするはずがないのであるから、原告らは自分の感覚で不思議だったり不可解だったりしたことから推理していくしか方法がない。そして、自然に考えてきたところ、上記の示唆にたどりついた。これは今はただの「推理」にすぎない。しかしこの推理から導き出された大きな疑問符は決して看過できない。裁判所はこの疑問符を胸において教科書官製談合の全体を見ていただきたいのである。
 そしてこれが果たして推測にすぎないのか否かを確かめるため、別途証人喚問を要求する。

 

以上

添付書類    甲第43、44号証       各1通 


準 備 書 面 (12) 

2007年2月28日

  

準備書面提出期限の延長について

 

 第一回口頭弁論において、大門裁判長は原告らに準備書面を2月末までに提出するよう求めた。それに対して、原告らは誠意を持って準備してきたが、本件の不法行為が項目的にも多岐にわたり、内容も複雑であり、調べれば調べるほど不思議な事実が発見され、奥が深いことがわかり、関係行政機関に情報公開なども行いながら準備しており、予想外に時間がかかっている現状である。また、原告らは弁護士を立てず、本来の仕事をしながら、子育てや介護などを行いながら、生活人として裁判を行っているため、仕事として行っている弁護士のように裁判ばかりに時間が取れない。第一、原告らは素人であるため、法律について、裁判のやり方については自分たちで調べ、勉強しながらすすめなければならないのである。

原告らは杉並区 教育委員会の不法な採択に憤りを感じ、このまま黙っているわけにはいかないと、素人であるにもかかわらず、止むにやまれず提訴した。準備書面を書くのは生まれて初めてである。

以上の理由で2月末までには書き終えない準備書面があるので、書面提出期限を延長していただくことを要望する。 

今後提出する予定の準備書面は以下である。 

1.本件採択の適正手続き違反 

  (1)調査委員会報告を無視したことの違法性

  (2)その他 

2.教員による報告書を書き換えさせたことの違法性

   (1)書き換えの事実経過

   (2)書き換え命令行為の違法性

3.臨時警備委託の違法性 

4.教育委員会を2回開いたことの違法性 

5.官製談合について 

6.当事者照会回答書に対する反論

                              以上


 準 備 書 面 (13)

 

2007年2月28日

 

公正な裁判のために私たちの気持を汲み取り、

準備書面をていねいに読んでいただきたいこと

 

 はじめに 

弁護士もなしにこの裁判を起こした私たち原告の心情を以下に述べます。裁判官のみなさまは、わたしたちのぎりぎりの止むに止まれぬ気持をお汲み取りくださり、公正な裁判をされますよう、心からお願いいたします。

今回たくさんの準備書面を提出しました。素人の書いたつたない準備書面ではありますが、どれもが重要です。公正な裁判を行うため、どうぞていねいに読んでくださるようお願いいたします。 

 

再び戦争のできる国を目指す日本 

昨年12月、教育基本法が改悪されました。 

 安倍首相を初めとする政府与党は、国民の声を聞こうともせず、自民党支持者の中でも過半数が慎重審議を求めていたにも関わらず、公聴会には謝礼まで払って「やらせ」の発言をさせ、数の力にまかせて強行採決しました。これほど国民を愚弄したやり方があるでしょうか。これこそがまさに教育基本法第10条違反であり、国民主権をうたう憲法違反であります。

 改悪された教育基本法は、教育への国家の介入を禁じた10条を廃止し、戦前と同じ国家主義教育を復活させることを目的としています。アジア諸国の2000万にのぼる人々を殺戮し、自国にも多大な犠牲をもたらした悲惨な戦争の教訓から、これを二度と繰り返すまいと教育基本法を制定したのに、その教訓を忘れ、今、日本はまた同じ道を歩もうとしています。 

 私たちがこの裁判で提起した「つくる会」教科書は教育基本法改悪を前倒しして、戦前と同じ国家主義的教育を推進する具体的な道具です。準備書面(9)に書いたように、教育基本法「改正」と同じく、安倍晋三を初めとする自民党議員らの政治的な介入によって推進されてきました。 

 「つくる会」教科書を使っている杉並区 では、教育基本法がすでに改悪されたかのような、子どもたちや教員の自由を奪い、すべてを区や教育委員会が押し付ける統制教育が行われています。そして「つくる会」教科書は「国のため」に喜んで命を捨てる子どもを作り出そうとしています。 

戦争というのは、アメリカを見ればすぐにわかるように、世界で最も強い国が他国を経済的に支配する手段であり、他国民はむろんのこと自国民の命をも虫けら以下にしか思っていない権力者が、それを商売に利用する財界人とつるみ、まさに「金もうけ」のためにやるものです。戦争のできる国になるということは、闇の中にいる人間の形をした悪魔の、そんな忌まわしい欲望のために、私たちの子どもたちが人を殺し、殺されるようになるという意味に他なりません。 

 もはや日本は戦争のできる国になる、そのぎりぎりの崖っぷちにいる、いいえ、もう半分落ちかかっています。一人の大人として何もせずにはいられず、弁護士もなしに裁判を起こしました。杉並区 の扶桑社版歴史教科書採択は不法な行為の連続によって行われました。それは教科書の内容以前の問題であり、手続き的な違法です。そんな違法行為を許しておけば、為政者はいい気になってますます戦争のできる国への準備の速度をあげていくのです。私たちは子どもたち、そして将来彼らに殺される外国の子どもたちの命を守りたい一心です。そしてこの気持は私たち原告のみならず、庶民なら誰でもが持っている当たり前の感覚なのです。裁判官のみなさまには、この庶民の必死の思いを汲み取っていただきたいと思います。

 

人間の尊厳と誇り(戦争だけは決してやってはいけない) 

 人間には「人間の尊厳と誇り」というものがあるはずです。戦前、国家権力に統制され、「戦争反対」とも言えずに「国のため」に死ねと教えられた私たちの両親、祖父母たちは、戦争が終って心の底から喜び、犠牲者の死を悼み、平和が続くことを願ってきました。自民党の大物政治家であっても、故後藤田正晴氏や故箕輪登氏、野中広務氏のように戦争体験のある方々は、戦争に対して非常に敏感かつ慎重であり、改憲などとんでもないと言っています。財界人にも一兵卒として戦争に参加し、戦争の残酷さを二度と繰り返してはいけないと説く品川正治さんのような方もいらっしゃいます。そこにどんなに巨額の利益があろうと戦争だけは絶対にやってはいけない、これが「人間の尊厳と誇り」というものです。戦争体験者である彼らの気持を受けつぎ、平和をこそ守っていかなければならないのです。

 

小さな裁判でも平和への一歩 

この裁判は小さな裁判かもしれません。けれどもひとつひとつ不正を正していくことによって、今なら、まだ戦争のできる国になることを止めることができます。その力が裁判官、あなたにはあります。そして、私たち大人一人ひとりにあります。今こそ、大人たちは子どもたちのために、行動しなければなりません。 

裁判官のみなさまは絶大な権限を持っておられます。「人間の尊厳と誇り」に基づき、あなたの良心と良識を生かした判決を出せば、その影響力は計り知れません。あなたが日本を戦争のできる国にすることを止めることができるでしょう。何千、何万という若者の命を犠牲にしないですみます。日本国憲法の成立過程を考え、憲法を遵守し、改定前の教育基本法の理念を実現する方向でこの裁判に関わってくださるよう、心からお願いいたします。  

以上


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