平成18年(行ウ)第568号 杉並区 扶桑社版教科書採択に関する違法な公金支出の無効確認等請求事件

第一回口頭弁論(2006.12.20)関連書面

準 備 書 面 (1)  第一回口頭弁論にあたって

準 備 書 面(2) 扶桑社版教科書と杉並区教育委員

準_ 備 書  面_(3)_ 杉並区の扶桑社版教科書採択は官製談合である

準 備 書 面(1)

 東京地方裁判所民事部 御中

2006年12月17日

第1回口頭弁論にあたって

 一、公正・中立及び適正な訴訟進行

日本国憲法76条3項に「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」とある。また、憲法31条には、適正手続きを行なうように要請している。つまり、裁判長らは、憲法の理念及び原理に則り、本件裁判において、公正・中立及び適正な訴訟進行を行なう責務を課せられている。しかも憲法及び法律の解釈、判断を行なう場合においても、勝手な解釈、判断を行ってはならず、憲法及び法律が制定された歴史的経過及び歴史的経過に基づく立法の趣旨から外れる解釈、判断を行ってはならないことはいうまでもない。

しかしながら司法の長である最高裁長官は、内閣の指名に基いて、天皇がこれを任命し、他の裁判官は内閣が任命するがゆえに、司法は、行政府寄りの解釈、判断が顕著となり、司法に対する人々の信頼が著しく失われている。この失われた信頼を取り戻すためには、公正・中立な裁判を積み重ねる外はない。よって、本件の審理において公正・中立及び適正な訴訟の進行を強く求める。

二、開かれた裁判

日本国憲法82条において裁判の公開法廷を定めている。この公開法廷の審理の中に、公正な裁判の保障を発見するという現代法の理念を具現している。さらに、公正な裁判を保障し具現化を図るためには、単に法廷を公開するとの表面的な措置だけでなく、訴訟行為全般にその理念を反映させる措置を行なう必要がある。このような措置によって、法廷はより開かれた空間となり、公正な裁判の制度的保障が高まるのである。

三、口頭弁論主義の徹底

日本の訴訟制度は、口頭弁論主義を採用している。しかしながら現実は、書面主義的傾向が強く、口頭弁論主義は形骸化している。例えばそのことによって、法廷での審理が傍聴者には理解しにくい状態になっていて、傍聴者の存在は、実体上無視されている。それでは、真に法廷が人々に開かれたものとはならない。書面の提出、授受の確認のみでなく本来の口頭弁論を行うことによって、傍聴者にも解りやすい審理となるであろう。そのことによって司法に対する人々の信頼は高まり、人々に親しみやすい裁判所となるのである。以上のような理由からも本件における法廷は、本来の口頭弁論主義を徹底して行なうように強く求める。

四、録音テープの公開

次回期日に向けた迅速な対応、準備のために迅速な口頭弁論内容の確認が必要である。よって、口頭弁論録音テープの公開は必要不可欠である。

結語

 第1回口頭弁論にあたり、司法に最も求められかつ必要である裁判の公正、中立さと合わせて、開かれた法廷の具現化のために、本件を担当する裁判長らに以下のことを実施することを要望する。

 1. 書面の提出、授受の確認だけではなく、意見陳述の時間をとること。

 2. 口頭弁論調書の公正性、正確性の確保のためには、原告・被告・裁判所三者による合意の上で口頭弁論調書を作成すること。

. 口頭弁論調書の記載に間違いがないか、記載漏れはないかなどの確認及びその保障のためには、裁判所が補完している口頭弁論録音テープの公開が不可欠である。よって、同テープを公開すること。

以上


 準 備 書 面 (2)

裁判所がつけている裁判の番号です。)2006年12月18日

原 告  W.Y.

  昨年8月12日、杉並区 は中学校で使う歴史教科書として「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版歴史教科書を採択しました。私たちはその採択に関わる公金支出が違法であるとして、その無効確認などを求めて、この裁判を提訴しました。

 この教科書は全国583の採択地区の中でたった2ヶ所杉並区栃木県大田原市 でしか採択されず、採択率はなんと0.39%にすぎませんでした。全国から“No”と言われたこの特殊な教科書を、なぜ杉並区 は採択したのか? 言い換えれば、他の地区では拒否された教科書をなぜ、採択「できた」のか? このことを考えることから、この裁判は始まります。

杉並区には、99.6%の不可能を可能にする何らかの力がはたらいたと見るのが自然でしょう。どんな力だろう、一体何があったのだろうと疑問は膨らんでいきます。

 さらに、そんな不人気な教科書を選んだのはどんな教育委員なのだろう、そこまで人気のない扶桑社版とはどんな内容なのだろう? という疑問も浮かんできます。

 これからこの裁判で採択手続きの違法性の有無などを問うていくにあたって、これらの疑問はこの裁判の行方に重要な示唆を与えるものです。第1回口頭弁論にあたり、この採択が行われた舞台裏を考えていただくために、少しご説明したいと思います。

 ★これが問題の教科書です。

 中学校歴史教科書は8社から発行されています。8社の教科書の中で、扶桑社版は他7社から1社だけポーンとぬきんでて特徴的です。ここでは特に大きな特徴だけ述べます。まず、「古代」の「読み物コラム」3つのうち、2つに神話がとりあげられています。一つが「神武天皇の東征伝承」です。もう一つは「日本の神話」で、イザナギ・イザナミの命、天照大神とスサノオの命などについて、計3ページも使っています。神話について「調べ学習」までさせようとしています。【証拠甲第5号証】その上、扶桑社版のドリルには、次のような問題が載っています。【証拠甲第6号証】(次回提出)

*「日本書紀」で伝えられている、初代天皇とは誰か?

                        (正答:神武天皇)

*その天皇は誰の直系であると伝えられているか? 

  (正答:天照大神)

*その天皇が東征しているとき、道案内をして助けたと伝えられるものはなんであったか?                (正答:カラス)

 私は8社の教科書を詳細に読み比べましたが、他7社で神話をこのように取り上げている教科書はありません。

 ★二つ目の特徴は、戦争の捉え方が偏っていることです。

コラム「歴史の名場面」の「蒙古襲来」「日本海海戦」の文章はまるで戦記物のようで、臨場感に溢れています。【証拠甲第7号証】学生時代に研究した戦争中の「桃太郎」を思い出しました。戦争中は児童文学者も戦争に協力し、戦意高揚のための「桃太郎」が何種類も書かれました。「つくる会」系のグループが主催した模擬授業では、「日本海海戦」の授業に映像も使い、さらに戦意高揚をはかっていました。その「先生」は現役の小学校教員ですが、授業でその映像が終ると子どもたちから拍手が起こるそうです。まるで戦時中のようではありませんか。

  扶桑社のドリルにはこんな穴埋め問題があります。ご覧下さい。【証拠甲第8号証】

 「日本の緒戦の勝利は、( @ )アジアや( A )の人々に独立の夢と勇気を育んだ。( @ )における日本軍の破竹の進撃は、現地の人々の協力があってこそ可能だった。日本軍の捕虜となったイギリス軍( A )人兵士の中から( A )国民軍が結成され、日本軍と協力して( A )に向けて進撃した。インドネシアや( B )でも、日本軍の指導で軍隊が作られた。」

        解答は @東南 Aインド Bビルマ

  次は生徒自身に答を書かせる問題です。

  @日本は、占領した東南アジアの各地で軍政をしいたが、東南アジア各地の指導者たちはなぜ日本の軍政に協力したのか。 (答:欧米諸国からの独立を達成するため)

  A数百年にわたってオランダの植民地とされ、『今に北方からやって来た人々によって、われわれは解放される』という伝説のあったインドネシアでは、日本軍をどのような軍ととらえたか。 (答:解放軍)

自分からこのような答を書かせられる子どもたちは、日本が東アジアを侵略し3000万人以上の人々を殺戮した事実を知ることはないでしょう。

  ★さて、こんなに不人気な教科書をあえて選んだ教育委員はどんな人なのでしょうか。

採択のための教育委員会から、その人となりを表わす発言を要約して取り上げてみます。

宮坂公夫教育委員は国語の審議で「平和の指向の強いものは避けるべきだ」と発言しています。また歴史の審議で、こんな発言もしています。

「さすがに『慰安婦』(の記述)はなくなった。よいことだ。沖縄の集団自決に軍の強要があったかどうか、事実はどうなのか、調べて書け」

沖縄の集団自決について、「つくる会」的な思想の方々は「軍の強要はなかった」と主張しています。仮に軍の強要がなかったとしても、「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪過の汚名を残すことなかれ」と教育したのは一体誰だったでしょうか? 軍がその時直接強要しなかったとしても、もっともっと以前から身体に染みとおるほどに国が強要したのです。

 それに宮坂委員は「日本は他国に危害を加えたことはない」とも発言しています。

 もう一人の教育委員・大蔵雄之助氏は「明治憲法の『天皇は神聖にして侵すべからず』は象徴天皇を昔の言葉で言っている」と発言しました。また、「原爆の記述が薄くなっているが、みんなすでに十分知っていて、どこでも調べられる。」などと発言しており、この教科書を使うのが戦後65年も経った今の中学生なのだということを完全に忘れ去っています。

  さて、納冨善朗教育長ですが、この人は元区長室長で、区長の懐刀と言われた人です。区長に不倫問題が起きた時、もみ消したことで区長の信頼を得ました。納冨善朗教育長は、歴史の審議が紛糾した時、「率直に言ってどうでもいい。私の中で消化できない」と言いました。

 安本ゆみ教育委員「扶桑社版は戦争に向かう教科書だと思う」と言いました。この発言に対して、当時「つくる会」会長・副会長であった八木秀次氏・藤岡信勝氏の連名で、「扶桑社版の何ページ何行目からその評価に至ったか」などという公開質問状が送られてきました。「つくる会」は安本ゆみ教育委員を名指しで攻撃した中傷ビラまでまいたのです。【証拠甲第9号証】

  残るは丸田頼一教育委員長です。この人は司会でした。特筆すべき発言はありませんでしたが、おもしろいことに32の多数決で採択後、いいわけのように、次の言葉をつけたしました。

  ・検定を受けた教科書はどれも同じとの意見がある一方、編集方針、記述内容等の間違いも指摘されている。

 ・より自由な編集方針とコンセプトで作られた本を教科書として認定する、認定制度の導入を早急に検討すべきと考える。

 ・教科書の採択システムについても、今後教育委員会から各地域運営学校の学校運営協議会に委ねることも考えられる。

 ・教科書を主教材として、学校では一切使用せず、教師たちが主教材を別途用意している学校も知っている。教科書を副教材とすることは、ドイツ等先進国では一般的なことであり、今後我が国でも幅広い普及を期待する。

 ・社会科の歴史については、扶桑社を採択することになったが、教科書の内容を補完する立場から、補完ガイドラインを示すとともに、杉並区 教師用指導書概要も提示し、教員の便宜を図るべきものと考える。

この言葉を丸田委員長は「委員長コメント」として発表しました。【甲第10号証】それが新聞報道されたところ【甲第11号証】、丸田委員長は8月16日、以下の内容の「委員長補足コメント」を発表しました。

・委員長である私のコメントは、個人の資格で述べたものであり、委員の合議に基づいた結果ではない。

・教科書を主教材としないことを提案したものではなく、次年度以降、杉並区 においては、今回採択された教科書を全て主教材として使用するのは当然のことである。

・補完ガイドライン・杉並区 教師用指導書概要について触れたが、その補完の内容は、「地域調査」や「各時代の生活、文化、教育、産業」をさしている。【甲第12号証】

 採択後、教育長も「教育長コメント」を出しました。【甲第13号証】

 ・杉並区 教育委員会では、自治体基本条例の趣旨に従い、審議を公開し、また、抽選に外れた傍聴希望者のために別室を設け、教育委員会の議論をスピーカーで流した。

 ・調査委員会の報告書や独自の調査、知見を踏まえて審議を行い、採択を行ったことは公開審議で明らかである。

 ・採択された教科書は国の検定を合格したものである。

 採択にうしろめたいことが何もないならば、なぜ教育長はいわずもがなのこんなコメントをわざわざ出したのでしょうか? 扶桑社版は調査報告書では最低の評価だったため、「国の検定に合格している」この一点をしか採択の根拠にできなかったからです。ここにしがみつくしかなかったのです。違法なことをせず、普通に採択したならば、言い訳する必要はありませんでした。ただ堂々としていればよかったのです。

 扶桑社版を選ぶこと自体が全国の新聞ネタになるような「不可能を可能にした」異常事態であり、「不可能を可能に」するために行った違法行為の一端を担った教育長、教育委員長はさすがに「知らぬ存ぜぬ」ではいられず、最後に言い訳せざるを得なかったのです。

  このような教育委員を選んだ山田宏区長がどんな人物であるのかに、次は興味をもたれたことでしょう。次の準備書面でそれを明らかにします。

                               以上


準 備 書 面 (3

2006年12月17日

原 告 T.M. 

 この提訴の本質と背景にあるものは、杉並区 山田区長並びに教育委員会を始めとする行政のモラル低下、著しい不正義、上に対するイエスマンの体質蔓延としか言いようが無く、区行政の誰一人この異様さを止めることができないということです。民間企業各社が、今やコンプライアンス、CSR(企業の社会的責任)が経営の重要課題になっている時代に、地方自治体がおかしくなっているのです。本法廷もマスコミと同じく、打ち上げ花火のような政策だけにごまかされないよう、杉並区 の違法・異常な実態を良く見ておいていただきたいと思います。 

 訴状で提起した違法は採択の経過は、扶桑社という一企業を選ぶための教科書採択の形を取った「官製談合」であったということをも証拠を示し、主張します。なぜ官製談合となるのか? この扶桑社の歴史教科書を採択したいという明確な意図を政・官が持っていることを本人達も自覚しているはずであり、検定、教科書、教育委員会という制度の特殊性で全てカモフラージュされて大丈夫だとタカをくくっている。

 だから規則の主旨どおり手順を踏んで客観的に、自然に選ばれるという経過とは似ても似つかぬ証拠がしっかり残るのです。これは被告側が住民監査請求の監査結果でも本質を避け、何ら釈明できていないことでもわかります。この教科書官製談合を止められないと、味を占め必ず再犯します。どんな形を取ろうとも、教科書は最終的に税金で購入されるものであることを被告も知っているのであり、その上で自己実現の政治手段として中学歴史教科書採択を私的利用するなど許されるものではないのです。

 入札談合等関与行為の排除と防止に関する法律(官製談合防止法)の中には、「受注予定者となるべき者をあらかじめ指名したり、特定の事業者を受注予定者となるべきものとして希望する旨の意向をあらかじめ教示し、または示唆すること」「入札又は契約に関する情報のうち、特定の事業者、又は事業者団体が知ることによって特定の事業者等が入札談合等を行うことが容易になる情報であって秘密として管理されているものを、特定の事業者等に教示し、又は示唆すること」他を官の関与行為としています。(二条4項、5項)杉並区 の扶桑社教科書採択は、まさにこの官の意向を役所内で徹底したことに他ならないわけです。

建設工事発注や物品購入で同じやり方が許されるなんて、誰も思わないし、他の教科書会社と執筆者が同じような政・官と組んだ場合だっておかしいと思うでしょう。なぜ、扶桑社の教科書だけが許され、問題とならないと言えるのか? 

例えば、建設工事で指名入札10社のうち、特定のA社は日本の文化・伝統の尊重を社訓に入れているのですばらしい・・と自治体の長や建設部の役人が発言したらどうなりますか? しかもその会社の人脈を持っているとしたら。更に役所内に工事選定審査委員会と称して5人が調査報告書の評価と違う最も点数の低い1社を決められるとしたらどう思いますか? しかもその1社の技術調査結果を委員が書き換えさせていた事がわかったらどうします?ここにトップの意向を受けた不正があることは容易に想像できるわけであり、告発が有れば捜査が入るでしょう。 

例えば、全学校で使う多量のパソコンを選定委員会と称して5人で決めるとき、仕様書に合致したメーカーが5社あるのに、現場調査票で最も評価点数の低いC者のパソコンを「意外や意外、学習指導要領の精神に最も合致するので選定する」と発言することをどう思いますか?最も低いシェアの人気の無い物品を自治体が購入すること自体疑われるのに、しかもハード・ソフトの欠陥が購入後多数見つかれば、普通リコールか返品です。

なぜ、扶桑社の教科書だけは良いと言えるのでしょう?結果として歴史的記載のミス、写真や絵の間違いも多く、しかもこの教科書の執筆者つまり、製造元の「つくる会」は分裂してしまいました。誰が製品の保証をするのでしょうか? 採択した杉並区 の先見の明の無さは、官製談合という恣意的な教科書採択だから招いた結果でもあります。 

他の業界では在り得ないこの教科書官製談合方式とでも言える実態は、杉並区 では今や調査委員会や調査票はあくまで参考だとして、自分たちの決めた規則・要綱等をもなし崩し的に運用してはばからない。このモラルの低下はどこから来るのか? この違法・不正は区民として許すわけにはいかないとして住民監査請求をし、その結果を全く不服として提訴に至ったわけです。 

最近の連日の官製談合の新聞・テレビ等での報道は、地方自治体は今はどうなっているのかという疑念が現実に官側の犯罪行為として存在することを示しています。有るかも知れないのではなく、官製談合はチェック機能がない所では必ず発生しうることが常識になりつつあり、この官製談合の防止には、「内部通報制度」をつくり、それの窓口は当該自治体の長宛ではなく、外部の弁護士宛にする・・というような防止策が議論となっています。これは、トップの関与行為が問題であるとの本質からです。 

今や、司法の場もこの自治体行政のモラルの無さを認識したうえで本案件の本質に踏み込まれるよう切に訴えるものです。そうでなければ、司法の場そのものが、杉並区 の山田区長のように味を占めた自治体の長になめられることになるでしょう。東京地裁におかれては司法の権威にかかっている審理であり、原告にとっては司法に正義はあるかと確認する真剣勝負の場と考えていることを認識いただきたい。 

被告答弁書が遅く出されたので、今後の具体的検証、再反論は次回の準備書面、口頭弁論から始めます。

以上


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