補正命令

 

訴状の補正

 

準備書面(5)_

 


補正命令


 

 

平成18年(ワ)第20396号 損害賠償等請求事件

 

2006年11月6日

 

東京地方裁判所民事第43部 御中 

 

訴状の補正 

 

 2006年10月19日付けの「補正命令」が届いたので、以下のように、補正を行なう。

 

1.被告自由民主党の不法行為の具体的内容

 

(1)被告自民党は、2005年1月18日に開催した党大会において、「偏向教科書の是正」を重点課題に決め、「つくる会」教科書の採択を全面的にバックアップする姿勢を鮮明にした(「つくる会FAX通信」第133号 2P)

 

(2)2005年度の教科書採択の手続きが各地の教育委員会ではじまるその時期に、「つくる会」とともに行動してきた「議員の会」は総会を開き(2005年3月2日)、文科省に対して「つくる会」教科書の採択に有利になる「教科書採択手続きの改善に関する提案」を提出した。同総会には、文科省の教科書担当の官僚のトップである山中伸一審議官と片山潤一教科書課長が参加した。(『産経新聞』2005年3月3日))等不法行為をなした。

 

2.被告安倍晋三の不法行為の具体的内容

 

被告安倍晋三は、1997年当時は自由民主党の有力議員として、2003年9月以降は、自由民主党幹事長として、日本国の最高指導者の一人として、国家的な絶大な権力を有していたものであるが、

 

(1)被告安倍晋三は1997年2月に結成された「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(後に「若手」を名称から削除)の事務局長として、同会が文科省に圧力を加え、政治介入を行って「つくる会」教科書を検定に合格させ、同教科書の採択に有利になる採択環境を整えるための行為に深く関与してきた。

 

(2)被告安倍晋三は、2004年6月14日の「国会議員・地方議員合同シンポジウム―正しい歴史教育を子供たちに!」に向け、「幹事長通達」を出し、「歴史教育は憲法改正、教育基本法改正と表裏一体」「参院選の争点ともなりうる」と強調、各県連に対し、「歴史教育問題の活動にふさわしい議員3人の教科書シンポジウムへの参加」を要請した。(証拠 甲第1号証 国会議員・地方議員合同シンポジウム配布資料「教科書改善運動スケジュール等」)

 

(3) 同シンポジウムにおいて被告安倍晋三は来賓として、「地方議会が地域の教育委員会をしっかりと見ていただきたい。我々はどうした環境をつくっていく大きな責任がある」と、出席している地方議員に檄を飛ばした。(証拠 甲第2号証 「つくる会」機関紙『史』通巻45号21P

 

(4)被告安倍晋三は、2004年9月11日の「つくる会」第7回定期総会後の「『つくる会』前進のつどい」に「歴史教育に使用する教科書については、毅然たる検定作業と公正な採択がなされることが重要です。等」という祝電メッセージを送った。(証拠 甲第3号証 『史』通巻46号18P)等、不法行為をなした。

 

3.自民党及び安倍晋三の不法行為による損害

 

(1)懲罰的損害賠償

 

自民党は日本国における議会の第一党であり、安倍晋三は、(1)においては、自由民主党の有力議員として、(2)(3)(4)においては、自由民主党という日本の議会政党第一党の公党の幹事長及び国会議員である。被告らは、日本国憲法、教育基本法、学校教育法(同施行令、同施行規則)、教科書の発行に関する臨時措置法(臨時措置法)、同施行規則、義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律(教科書無償法)、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(無償措置法)、義務教育諸学校の教科図書の無償措置に関する法律施行令、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行規則、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)、学習指導要領、世界人権宣言、児童権利宣言、学習権宣言(1985.3.19、第4回ユネスコ国際成人教育会議宣言)等の教育及び教科書に関する関連法規を率先して遵守すべき地位にありながら、自ら、これら関連法規違反であることを自覚しながらこれを破る決意のもとに、上記(1)ないし(4)の不法行為をあえて敢行したものである。

 

従って、自由民主党及び安倍晋三の加害行為は、極めて悪質で表現によっては、万死に値するものであり、通常の損害賠償責任でもって償わせるのが不相当な損害である。

 

そこで、世界的に、かかる損害の場合の常識ともいうべき、懲罰的損害賠償が相当と認められるので、本件において、懲罰的損害賠償を請求することとし、請求の趣旨記載の損害を請求する。

 

一方において、懲罰的損害賠償は、懲罰的損害を認めることで、わが国の法制と調和せず、懲罰的損害の概念自体、成熟した裁判規範として未だ受容されていないという議論もある(判例時報1937号123頁以下)が、一国の指導政党及び指導者としての立場にある者の行為として、国民として、誠に許し難い不法行為であり、わが国においても、世界の裁判の通例としての懲罰的な損害を認めるべきである。

 

(2)原告らの精神的苦痛

 

  a) 「つくる会」、扶桑社版の教科書が公認されることによる損害。

 

「つくる会」扶桑社版の教科書は、これまでの通例として学校教育で習ってきた諸種の事項に対し、それらとは全く相反する事実であったことを主張するもので、これまでの教育を受けた者の価値体系を根本的に狂わせるものである。いわば、第二次大戦後、戦前の教育内容の大転換が行われたが、これと類似の作用を及ぼすものである。

 

その意味で、これまでの社会に対応する態度の一大変容を迫られるもので、その精神的苦痛は計り知れない。この精神的苦痛に対する損害を請求の趣旨で求めたものである。

 

  b) 自由民主党及び安倍晋三の日本の指導者としての裏切行為に対する損害。

 

自由民主党は日本国における議会の第一党の政党であり、安倍晋三は、日本における議会の政党として第一党の自由民主党の幹事長である。

 

公党及び公党の最高責任者で、日本の最高指導者が教育に関する根本法規をあえて破ろうとする不法行為をするとは、主権者の日本国民である原告らは想像さえ出来ないことであった。

 

しかし、現実には自民党及び安倍晋三は、故意に、あえて憲法違反等教育関連の根本法規違反をした。

 

このような不法行為による主権者の日本国民としての原告らの精神的打撃は、日本の最高指導者の裏切行為として重大な精神的打撃を受けた。

 

誰を信じるべきか、信じるべきでないか、各人の評価体系の一大変容を来たすべき事態が生じたのであり、この精神的打撃は計り知れないものである。

 

この精神的慰謝料の一部として請求するのが、請求の趣旨記載の損害である。

 

以上

 


 

平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準備書面(5)

 

 2007年1月31日

「訴状の補正」第2項(1)の補充

 松井裁判長は第一回口頭弁論において、「訴状の補正」第2項(1)について、被告安倍晋三の不法行為の具体的な内容(いつ、誰の、いかなる行為か)を記載した準備書面を出すように命じた。

 被告安倍晋三の不法行為の具体的な内容は次の通りである。

 1.中学校歴史教科書の「従軍慰安婦」という記述を削除しろと文部省に圧力

 2.教科書会社にも「誰の責任か?」と恫喝

 3.内閣外政審議室に圧力

 4.吉見義明中央大学教授にも圧力

 5.中曽根弘文文部大臣に圧力

 6.教科書検定基準に圧力

 7.教科書採択への介入を公然と表明

 8.大学入試センターにも圧力

 9.河村文科相に「近隣諸国条項」削除を求め圧力

 10.文科省、政治家団体の圧力に屈服  

1.中学校歴史教科書の「従軍慰安婦」という記述を削除しろと文部省に圧力 

 被告安倍晋三が事務局長であった「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(以下「議員の会」という)は、第2回会合(1997年3月6日)に、遠藤昭雄文部省官房審議官・初等中等教育局担当(当時)と高塩至文部省初等中等教育局教科書課長(当時)を呼んで、「検定教科書の現状と問題点」と題して議論を行い、文部省に圧力をかけた。

 この会で遠藤昭雄審議官が、教科書検定は「いわゆる従軍慰安婦問題について」という内閣官房の外政審議室の調査報告書、内閣官房長官談話を資料とし、これに基づいて検定していると説明した。この第二回会合自体が文部省に対する圧力であったが、例として代表的な発言を挙げる。(甲第10号証)

(1)武部勤氏や衛藤晟一幹事長(当時)が、教科書で使っている「従軍慰安婦」という言葉は元々なく、「いわゆる従軍慰安婦問題」だったと主張し、文部省が勝手に「『いわゆる』が邪魔だから、『問題』を取って『従軍慰安婦』という言葉を使うことは違う」と述べた。

(2)新藤義孝氏は「いわゆるこの問題が歴史的な事実だったのかとか、表現をどうするかということは大切なことだが、その他に虐殺だとか南京だとかさまざまな戦争を取り巻くことがある。一体全体教科書でどこまでの事実や歴史を伝えるべきなのか」と述べた。

(3)渡辺博道氏は「客観的には『いわゆる従軍慰安婦問題』という記述なのであって、『従軍慰安婦』は客観的記述ではない」「これを載せることによってどういった教育的配慮をしているのか」と述べた。

(4)木村義男氏は「従軍看護婦」という言葉が中学校の教科書で取り上げられていないことに対して、「『従軍看護婦』という言葉はあるんだよ。そしてまさに従軍していたわけでね。大変な活躍をされた。ところが、『従軍慰安婦』という言葉はなかったんだろう? それは認めるんだろう?当時なかったんだろう?」とたたみかけ、高塩教科書課長が「ございませんでした」と答えると、「ない言葉をなぜ入れるんだ。しかもあまねく使っていた、あまねく大変ご活躍された人がなぜ中学校の教科書になくて、いわばゴミみたいな言葉を拾い上げてきて、なぜあげるんだ。それはどうなんだ」「『従軍慰安婦』の記述が文化・伝統を守るのであればいいけど、守らないんであれば、即刻削除しろ。課長がいま『文化と伝統を守る』と言ったんだから、なぜそこに該当するんだ。それを言え」と恫喝した。

 高塩課長が「文化・伝統を守って国民の自覚を保ち、公正な判断力を養うという歴史教育の目標がございますから」と冷静に答えると、木村氏は感情的になり、「公正な判断力って、当時歴史的な言葉でもなんでもないのに、言葉を捏造することがどうして公正な判断力を養うことになるんだ」と再び恫喝した。

 これらの発言は「歴史教科書への疑問」(「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」編・展転社1667年)という本の中に記載されている。被告安倍晋三の発言はここに引用した中にはないが、「議員の会」編の本として出版している以上、事務局長である被告安倍晋三はこの内容に重大な責任がある。

2.教科書会社にも「誰の責任か?」と恫喝

 被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は第3回会合(1997年3月13日)に高塩至文部省初等中等教育局教科書課長(当時)、丁子惇社団法人教科書協会会長(当時)、漆原利夫社団法人教科書協会常任理事(当時)を呼んで、「教科書作成の問題点と採択の現状について」と題して、議論を行い、文部省と教科書会社に圧力をかけた。安倍晋三事務局長(当時)はこの会合で司会を務めた。この第3回会合自体が文部省及び教科書会社に対する圧力であったが、例として代表的な発言を挙げる。(甲第11号証)

(1)衛藤晟一幹事長(当時)は「誤解なさらないで下さい。僕らはむしろいろいろな各方面のご意見をぜひお聞かせいただいて、そしてそれでもって本気で考えていきたいと思っておりますので、別に圧力をかけるような気持は全くありませんのでね」と述べた。自分たちの発言が圧力になることを自覚しているのである。

(2)被告安倍は「強制連行についてはなかった、というのが政府の公式の回答であります」とし、「それがあったかのように教科書に載せるということをどう考えておられるのか」と問い、丁子教科書協会会長が「前の官房長官が言われたように歴史教育を通して記憶にとどめていく必要があるということで、・・・今回載せたということになります」と答えた。その後の発言を引用する。

安倍晋三事務局長:「歴史教育を通じて記憶にとどめていく必要がある」と言った官房長官がいるんですか?

丁子教科書協会会長:河野官房長官(当時)の談話にそれが出ていると思います。  

高塩課長:平成5年の、前回お配りした資料の・・・

小林興起:しかし、「従軍慰安婦」を書けといったわけじゃないでしょう。

衛藤晟一幹事長:高塩課長答えて。

高塩課長:平成5年の8月4日の河野官房長官談話で、「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」という談話を河野官房長官が当時、発表されているということでございます。

安倍:あと従軍看護婦を載せなくて、何で従軍慰安婦を載せているのか。・・・

 その後、「議員の会」が「強制連行はなかったということがはっきりしているのだから、内容を変えろ」と恫喝するのに対して、高塩課長は「検定は官房長官談話や外政審議室の報告に基づいてやっているので、政府がそれを見直すということになれば、検定もその新しい資料に基づくことになる」と答弁、それに対して、「議員の会」は更に「真実に目を塞ぐ気だな」「現実は単なる言葉の遊びでやっているだけ」などと恫喝した。

 「議員の会」は丁子教科書協会会長に対しても、「でき上がったら、それはもう完全に・・・。課長さん、法律上、社長さんの責任? 出版社の責任? 編集者の責任? そのへんちょっと教えてちょうだい」などと恫喝を加えた。

3.内閣外政審議室に圧力

 被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、第4回会合(1997年3月19日)に平林博内閣外政審議室長(当時)、東良信内閣外政審議室審議官(当時)を呼んで、「いわゆる従軍慰安婦問題とその経緯」と題して議論を行い、内閣外政審議室に圧力をかけた。 

 平林博内閣外政審議室長(当時)、東良信内閣外政審議室審議官(当時)は当然ながら、「河野官房長官談話」を支持の上、外政審議室で出した報告が作成された経緯を説明したが、「議員の会」のメンバーはその説明のいちいちについて、「おかしい」「間違っている」という立場で圧力をかけた。この第4回会合自体が内閣外政審議室に対する圧力であったが、例として代表的な発言を挙げる。(甲第12号証)

 衛藤晟一幹事長は「『慰安所における生活は、強制的な情況の下での痛ましいものであった』と断定されるけれども、当時のいろんな書類を見てみると、むしろ軍の関係の慰安所は非常に率もよくて、安定していて、自由もあったという話もあるくらいだから、ここのところは実際どうなの」などという事実無根の質問を繰り返したり、中川昭一代表は河野官房長官談話について、「あったかどうかもわからない状況の中で・・・出てきてないときにごめんなさいということを官房長官、つまり内閣が国を代表して言うということの問題点なんですね」と言い、外政審議室に圧力をかけた。

「従軍慰安婦」については、「中国人慰安婦」裁判(東京地裁2002年3月29日、判例時報1804号50頁)等において、日本軍によって「慰安所」が設置され、日本軍の管理下に女性を置き、日本軍将兵や軍属に性的奉仕をさせるために、駐屯地近くに住む中国人女性(少女を含む)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返したという事実経過について、詳細かつ細部にわたって事実認定がなされている。この事実認定は控訴審判決においても引用されている。

4.吉見義明中央大学教授にも圧力

 被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、第5回会合(1997326日)に吉見義明中央大学教授を呼んで、「慰安婦記述をめぐって」と題して議論を行い、吉見教授に圧力をかけた。この第5回会合自体が吉見義明教授に対する圧力であったが、例として代表的な発言を挙げる。(甲第13号証)

 吉田六左エ門氏は「吉見先生があまりこの方向に移行されると、先生もあるいはその国のお方なのかなと、私は疑問を抱くほど最近それらの人たちの水面下での教科書選定に対するパワーをなんとなく感じているんです」とまるでチンピラ右翼と同じような恫喝を加えた。自見庄三郎座長は、この話題に全く関係のない湾岸戦争について、「正義の戦いであったと先生はお思いですか」とか、「(従軍慰安婦の問題を教えると)軍隊は悪いことをしたんだ、戦前は国家が戦争をしたわけだから、振り返って現在でも国家というものは悪いことをするんだ、といったことを教えるためだという学者がいるが、どう思われるか」と述べた。吉見教授が「そのようなことも申し上げなければならないのでしょうか」と聞くと、自見庄三郎座長は、「先生の思想の大変大事なところだと思うんです。きちっとお答えいただければと思います」と詰め寄った。

これは自見庄三郎氏本人も認めている通り、この話題に全く関係のない思想調査である。一介の学者がなぜ権力を持った自民党の国会議員にこんな質問をされなければならないのか。恫喝を加えているとしか考えられない。これは学問の自由を保障した憲法第23条違反である。

5.中曽根弘文文部大臣に圧力

 1999年12月16日、被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、中曽根弘文文部大臣(当時)に対し、教科書採択の「正常化」を要望した。
 被告安倍晋三は、この要望についての新聞取材で、「現在の教科書採択は教職員組合主導である」「教育委員会に採択の権限がある」「採択は学習指導要領に基づいて行われるべきである」「これまでの歴史・公民教科書が伝統と文化、価値観に誇りをもてないような教育を行う方向で記述がなされてきた」などと述べている。(甲第14号証)

 これらの発言は数字やデータ、明確な法律などの客観的・公平な根拠に基づくものではなく、極めて主観的な立場からの一方的な見解である。被告安倍は、教科書採択の現状について、客観的な立場にある機関などを用いた幅広い調査・検証を試みておらず、「議員の会」の価値観及び考え方に基づく立場から採択についての偏った見解を展開し、「正常化」が必要であるかのような圧力を文部大臣にかけた。この要望は、「議員の会」という一部の自民党(及び「つくる会」)の価値観・考え方及び政治的意図を文部大臣に押し付けた、ということであり、教育への政治介入にほかならない。

6.教科書検定基準に圧力

 2001年3月7日、被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は森喜朗首相(当時)と会い、「内外からの介入を排除し検定作業を粛々と貫徹すべき」「近隣諸国からの申し入れに毅然たる姿勢で対応すべき」「検定資料が流出・報道されている事態に責任をもって対応すべき」という意見書を提出した。(甲第15号証)

 意見書は、教科書検定基準である「近隣諸国条項」の撤廃に圧力をかけた。これは、子供が歴史を学ぶうえで、国際理解と国際協調の見地から必要なアジア諸国への配慮は必要ないとする、一方的な考え方であり、さまざまな見地からの意見を排除し、特定の一方向へ検定を誘導しようとする意図をもつ。意見書が要望する「厳正な作業貫徹」とは、多様な意見を封じ、ある一方向へ何が何でも突き進もうとする意志を示している。このようなある一方向に検定を誘導する意図と、その意図に反するあらゆる意見をねじふせようとする意志を有した意見書により、安倍被告及び「議員の会」は、さまざまな視点からの多角的な審査が必要とされる教科書検定に一方的な圧力をかけたのである。

   *近隣諸国条項:近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること

7.教科書採択への介入を公然と表明

 2001年3月21日、被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、自民党本部で総会を開き、教科書の「公正な採択を求め、前面で戦っていく」ことなどを方針として決定した。(甲第16号証)

 総会の決定は、教科書採択について公然と介入することを表明したものであり、「議員の会」の価値観と政治的意図に基づく「公正」の方向へ採択を作り替えていく、不公正の牽引力となった。この総会以降、地方自治体で採択規則が次々と変えられ、特定の教科書を選ぶための採択環境と手続きのさまざまな作り替えが行われたのである。

8.大学入試センターにも圧力

 2004年2月13日、被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、自民党本部で会合を開き、大学入試センター試験の「世界史」の問題に「強制連行」という表現が使われたことを批判し、歴史教科書から「強制連行」の記述の削除を求める運動に取り組む方針を決めた。
 同時に、被告安倍晋三のブレーン「5人組」のうち、八木秀次氏、中西輝政氏が入っている「新しい歴史教科書をつくる会」は1月末、「強制連行は戦後、日本を糾弾するための政治的な意味合いをもった造語だ」として、大学入試センターに問題作成者の氏名の公表や責任者の処分を求める公開質問状を出した。(甲第17号証)

 被告安倍晋三及び「議員の会」が「強制連行」の言葉を認めないのは、被告及び「議員の会」のイデオロギーに基づく政治的な見解である。歴史教科書から「強制連行」の記述の削除を求める運動とは、被告らの政治的見解の実現を教科書に求めるということである。これは、明らかに教育への政治介入の表明である。

 さらに、被告安倍晋三及び「議員の会」は、「つくる会」という自らのイデオロギーを実現するための教科書制作集団を通し、試験問題で「強制連行」の言葉を使うことについて入試センターに「氏名公表」や「責任者の処分」を求めた。自らのイデオロギー実現を目的とし、試験問題の作成に圧力をかけたのである。
 
 さらに被告安倍晋三及び「議員の会」は、「つくる会」とともに歴史教科書からの「強制連行」の記述の削除に取り組み、他の教科書や試験問題が「強制連行」の言葉を使用する度にこのような圧力をかけ続けた。歴史学の専門家による検証と議論によって作成されるべき教科書や試験の内容が、被告ら一部の政治家集団の価値観によって変えられたり、作られたりしてよいのだろうか。被告安倍晋三及び「議員の会」が、「つくる会」とともに行っているこのような行為は、試験問題や教科書作りという教育現場へ政治家が介入したというレベルを通り越し、政治家が教科書を作るという異常な事態を引き起こしている。政治が教科書を作る。これが「つくる会」の教科書の本質であり、教科書を通して教育へ政治介入する被告らの行為の不当性を訴えるものである。

.河村文科相に「近隣諸国条項」削除を求め圧力

 2004年3月25日、東京・九段会館で「教科書改善連絡協議会」(三浦朱門顧問・石井公一郎会長)による国民集会が開催された。「議員の会」衛藤晟一幹事長、下村博文事務局長など1200名が参加したこの集会では、教科書検定基準の一つである「近隣諸国条項」の削除を求める55万人の署名が披露され、「つくる会」元副会長・高橋史郎教授が「近隣諸国条項が教科書を歪めた」の意見表明、「議員の会」の古屋圭司会長が「国会における教科書是正の戦い」の意見表明など、現行教科書と検定を問題視する意見が表明された。最終的に集会は、検定基準の「近隣諸国条項」の削除を求める決議を採択し、翌月412日、教科書改善協議会は、河村文科相にこの決議書を渡し、「近隣諸国条項」の削除を申し入れた。(甲第18号証)

 この集会は、被告安倍晋三が名を連ねる「議員の会」及び「つくる会」が中心となって開かれた。絶大な権力を持つ自民党の大物政治家が多く関わる集会で採択した決議を文科相に提出し、「近隣諸国条項」の削除を求めるのは、教科書検定に政治的圧力をかける行為である。

 被告らがこのような圧力をかけた直後の4月22日、「つくる会」は「新しい歴史教科書」「新しい公民教科書」を文科省に検定申請する。被告らと同調する「教科書改善連絡協議会」が文科相に対して行った行為は、アジア諸国に全く配慮しない「つくる会」教科書と関係がなかったであろうか。被告らは、「つくる会」教科書を検定に通過させるための圧力行為を行い、「近隣諸国条項」の検定基準を満たさない教科書の合格を不法に勝ち取ったのである。

10.文科省、政治家団体の圧力に屈服

 2005年3月2日、「議員の会」(古屋圭司会長)の総会において、文科省に対し、6項目から成る「教科書採択手続きの改善に関する提案」を提出した。これに対し、総会に出席した二人の文科省幹部、山中伸一審議官と片山純一教科書課長は、教育委員の採択権限の明確化、市の単独の採択地区への見直し、わが国の歴史に対する愛情を深める「目標」を重視する方針を明らかにした。(甲第19号証)

 このことは、一部の政治家団体による教育への圧力に、文科省幹部が屈したことを示すものである。「議員の会」が提出した「教科書採択手続きの改善に関する提案」は、教育に携わる専門家集団によってまとめられたものではない。教科書採択の現状について客観的なデータをとり、広く開かれた協議を経てまとめられたものではない。「議員の会」という一部の自民党議員が独断的に把握した「現状」に基づいて導き出された提案である。

 提案は、教科書選びの際の選定資料が「より参考になるもの」として充実を訴える一方で、教育委員の決定は「選定資料の評価に拘束されない」という矛盾した内容となっている。なぜこのように矛盾しているのか。まず、教育委員が全ての教科の採択において選定資料なしには採択できない現状(全教科の検定済み教科書は400冊以上ある)を否定できないために、選定資料については充実を口にしている。しかし、歴史教科書については初めから採択させたい教科書は決まっているので、選定資料はその評価によっては邪魔になるのである。だから、教育委員の決定は「選定資料の評価に拘束されない」としているのである。ここには採択の公正性、公平性など微塵もない。これほどあからさまな教育への政治介入が今までにあっただろうか。

 安倍晋三被告らが、自らの価値観やイデオロギーの実現のために、絶大な権力を持った自民党の大物政治家という立場を利用し、教科書採択について「改善」という名で文科省に圧力をかけ、教育を一つの考え方で統制しようとする行為は教育の自由を奪う不法行為であり、絶対に許すことはできない。

結語

これら1から10までの行為は、被告安倍晋三ら「議員の会」のメンバーが強大な権力を持っている事実から鑑み、文部省、外政審議室、教科書制作会社、歴史学者などへの圧力となったことは間違いない。事実、この後、文部省は「つくる会」教科書を検定に合格させ、採択制度の見直しを行い、各教科書会社は教科書から「従軍慰安婦」という言葉を削除したのである。

このことについては、「議員の会」古屋圭司会長自らが、2004614日に行われた「国会議員・地方議員合同シンポジウム」において、「『従軍慰安婦』記述の訂正には成功した」と述べている。つまり、「議員の会」が圧力をかけて「従軍慰安婦」記述を教科書から削除させたことを自覚しているのである。(甲20号証)

ここで改めて述べるまでもなく、歴史教育とは学問の自由を保障された歴史学者によって研究され、学会で定説とされた内容を、政治家の不当な介入を排除して、公正に作られた教科書によって、子どもたちになされるべきものである。しかし、被告安倍晋三らは、以上検証してきたように、中学校歴史教科書から「従軍慰安婦」の記述を削除させるべく、また、「つくる会」教科書を採択させるべく、文部省、教科書会社、歴史学者、大学入試センターと考えうる限りの方面に圧力をかけた。あろうことか、日本国政府の公式見解として発表された外政審議室の報告や河野官房長官談話、近隣諸国条項にまで文句をつけたのである。そして自らの特異な政治的イデオロギーに合致した教科書を、権力をふりかざして検定に合格させ、採択基準を変えることによって採択させようとした。その結果、日本政府の公式見解をも否定するような特異な政治家団体が、特異なイデオロギーを持つ教科書を採択させるという異常事態を引き起こしたのである。

しかも、圧力をかけた事実を隠すこともせず、堂々と本(『歴史教科書への疑問』)として出版しているのだから、そのあまりの破廉恥行為に驚かざるを得ない。これらの圧力行為はすべて教育基本法第10条(改悪教育基本法では第16条)違反である。被告安倍晋三らがその違法行為を全く自覚せず、このような本まで出版していることに、国会議員としてここまで堕落しているのかと国民として絶対に許すことができない。

以上

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