平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

第三回口頭弁論(2007.6.1)関連書面

被告準備書面(2)_

意 見 陳 述 書_(I.A)

準 備 書 面 (12)_ (真実を選ぶことはポジティヴな行為―黒は黒であり白ではない

準 備 書 面 (13)_ (被告準備書面(2)の事務的なミス―被告の無意識(深層心理)が表すもの

準 備 書 面 (14)_ (「議員の会」結成趣旨自体が改定前の教育基本法第10条違反

準 備 書 面 (15)_ (被告安倍等の行ってきた「議員の会」による「圧力・恫喝」は改定前の教育基本法第10条違反

準 備 書 面 (16)_ (「議員の会」は自民党政治団体であり、教育への介入の急先鋒となった団体である)

準 備 書 面 (17)_ (誰が見ても常識的かつ当然である事実)

準 備 書 面 (18)_ (日本語として成り立っていない準備書面)

準 備 書 面 (19)_ (大人たちの責任 ―安倍の暴走を止めよう)

準 備 書 面 (20)_ (訴訟指揮への異議申立)

準 備 書 面 (21)_ (争点の整理)

準 備 書 面 (22) (第2回口頭弁論調書に対する異議申し立てと要求)

被告準備書面(2)


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件 

意 見 陳 述 書

2007年5月13日

 補助参加人  I.A  

 

私は現在40代ですが、20代の頃はリュックを背負って、ツアーではなく、自由に動ける個人旅行の形で、東アジアから東南アジアのほとんどの国を旅行しました。

近現代史に興味がある私は、特に20世紀に入ってから日本がこれらアジアの地で一体何をしてきたかをより深く知りたいと思い、一般的な観光地よりもむしろ過去の日本のアジア侵略に関わる地を訪れる事を重点に置きました。韓国の西大門刑務所、1919年の3・1独立運動時の史跡、あるいは今改めて問題になっている元日本軍慰安婦の女性達が共同生活を送るナヌム(分かち合い)の家など、中国では柳条湖・蘆溝橋・旧731部隊本部跡など、あるいはタイのカンチャナブリ・シンガポールの華人大虐殺の舞台セントーサ島など、印象に残る地をいくつも訪れました。

もちろん、学生時代の歴史の授業や、歴史に関する書籍を自分で読む事により、過去の日本のしてきた行為に対する一応の知識は持っていましたが、改めてその舞台である地を訪れる事により、机上の勉強での印象とは比べものにならない位、それらの歴史的事実や、それに対する自国日本の責任といったものが自分の心に深く迫り、それは今も強烈な印象として残っています。

さて、こうした旅行で、なるべくお金を使わない倹約旅行であるがゆえに、いきおい現地の多くの方々と様々な形で交流せざるを得なかった訳ですが、望んでいた事とは言え、これらアジアの国の多くで歓迎もされましたが、私が日本人であるが故に、過去の日本の行った侵略に伴う犯罪行為に関して、多くの方々から厳しい批判も聞かされました。

あの戦争時代からすでに数十年経ったとは言え、その当時の厳しく悲惨な被害体験は、たとえ表面に出る事はなくとも、アジアの多くの方々の心の中に、未だ忘れる事のできない大きな傷として厳然と生き続けている事を改めて痛感させられたのです。その中でも、特に私の心に深く残っているふたりの方の話を紹介したいと思います。 

最初は、1995年に私がフィリピンの最南部の島、ミンダナオ島にボランティアの一員として行った時のことです。この時はいわゆる旅行ではありませんでしたが、その国をより深く知りたいとの私の思いはもちろん変わりませんでした。その時はある国際NGO団体の主催する、井戸掘り活動を手伝うボランティアだったのですが、その活動を通してやはり手伝いに来ていた何人もの青年たちと親しくなりました。

彼らとは帰国してからも文通をして連絡をしていたのですが、私は翌96年も再度ミンダナオにボランティアに行く事になったのです。それで私は、前年親しくなった青年たちとぜひ再会したいと望み、活動中に何とか時間を見つけて、彼らに会いにいきました。その中でも一番親しかった青年の実家に遊びにいった時のことです。その家では家族全員で歓待してくれたのですが、その青年が「近くに住んでいる(彼の)おじいさん夫婦に会いにいこう」と誘ってきましたので、一緒に行くことにしました。

そのおじいさん夫婦は川沿いの質素な家に住んでいました。会うやいなや、「本当に久しぶりに日本人に会った」と言って歓迎してくれたのですが、話をしていくうちに1942年から45年にかけての日本軍の占領時代の話になりました。その話は、それまで聞いたうちでも最も具体的で衝撃的なものでした。それゆえ私も今だにその話の内容を忘れられないですが。

占領日本軍は、戦局の悪化により、このミンダナオ島においても現地の住民に対して様々の犯罪行為を働いたのですが、兵站が絶たれた日本軍兵士たちは、現地住民から強制的に食料等を徴発する事をやむなくされたそうです。そしてこのおじいさんは、まだ青年だった当時、日本軍の強制的食料徴発に抵抗して何とか食料を守ろうとした親しい隣人が、日本兵に無残に射殺されたのを目の当たりにしているのです。彼は私に対してその時の様子を身振り手振りを交えてくわしく話してくれました。

温厚な人でしたが、その話をした時のくやしそうな、悲しみに沈んだ顔を私は今でも忘れる事はできません。彼は英語を話せませんので、孫である友人の青年が英語に通訳して私に話してくれたのですが、その友人が一部は訳するのを躊躇するような壮絶な話でした。彼はきっと加害者の子孫である私に、今でも消える事のない心の思いをわかってもらいたくて、あのように懸命に話してくれたのでしょう。私は、自分がもしこのおじいさんの立場だったら、どうなんだろうと思いながらじっと彼の話を聞いていました。 

もうひとりは、私がマレーシアの東海岸北部のコタバルという町に行った時に宿泊したゲストハウスの、中国系のご主人です。ちなみにこのコタバルという所は、真珠湾攻撃に先立つ数時間前に日本軍が上陸し、対英米戦の最初の戦闘が行なわれた事で有名です。このゲストハウスのご主人は、たまに宿泊する日本人客にすごく親切で、金がない若者が多いからと朝食を無料でご馳走してくれたり、周辺の観光案内等を丁寧にしてくれたり、ただでさえ安い宿泊料しか払っていないのに、申し訳ないほど居心地の良い宿でした。

しかし何泊かするうちに、42年の日本軍の英領マレーの占領時の中国系市民の大虐殺の際、彼のご両親も日本軍に殺されていた事を知り、驚くと共に思わず考え込んでしまいました。まだ幼かった彼が、両親を無残に殺されてからいかに苦難の人生を送らざるを得なかったかは、考えるまでもなく容易に分かります。私が彼の立場だったら、果たしてこのように日本人に接する事ができるだろうかと思います。まず憎しみが先に立つのではないかと。そういう意味で彼の人格には頭が下がりますが、しかし彼の心中では決して両親を殺された心の傷・痛みが消えることはないでしょう。だからこそ、彼が私たちに親切であったからこそ、過去の日本がアジアに対して行なった無数の犯罪行為が、私の心に重くのしかかってくるのです。 

私も、今後日本がアジア諸国と真の意味で和解し、共に尊敬しながら平和に生きていくためには、このようなアジアの多くの方々の心の痛みに誠実に思いを致し、その痛み・傷を癒すために、過去の侵略・犯罪行為を真剣に謝罪し、必要な賠償はケチらずにちゃんと果たし、さらにこのような侵略行為を今後は絶対再び行わないことを衷心から誓うことによってのみ、それをなし得ると信じています。これらは決して難しい事ではありません。自分・自国のことのみではなく、他者・他国の事も同様に大事に考える、他者の痛みをも誠実に理解する、それだけで充分できるはずです。そして、未来を担う子供たちへの教育でも、実はこの「他者の痛みを理解する、そして隣人を自分と同じように愛する」事を教えるのが何にも増して一番大事な事ではないでしょうか。

しかるに、この訴訟の安倍晋三氏をはじめとした被告たちは、自分達だけの自己中心的な誇りを満足させるためだけに、自己の持つ政治的権力を悪用し、自分達の都合の良いように歴史的事実を歪曲した教科書を採択・使用させるよう不当・不法な政治的圧力をかけた事は、断じて許されることではありません。それのみならず、日本軍の「性奴隷」を強いられ、筆舌に尽くし難い苦難を蒙り、その後の人生も台無しにされた「元慰安婦」に対し、その心を改めて踏みにじるような、侮辱的暴言を繰り返す安倍被告などは、日本の首相の座に留まっている資格もないと言わざるを得ません。彼の過去の日本の罪を正当化するかのような誤った発言・行為により、彼個人のみならず、我々全ての日本人の名誉が著しく傷つけられているのです。こうした状況では、それによって強いられる私達の多大な精神的苦痛に対する損害賠償が当然認められるべきではないでしょうか。 

上記のようなアジア現地における私の経験は、何物にも代え難い貴重なものだと思います。しかしもちろん、全ての人間、特に子供たちが私と同じような経験を出来るわけではありません。何と言ってもまず正しい事実の書かれた歴史教科書等によって、子供たちは過去の日本とアジアの歴史を知る事ができるのです。そして正しい歴史的事実を知り、アジアの方々の被害の実態を、そしてそれに伴う彼らの心の痛みを幾分かでも知り、自分のものとして感じることが可能になってこそ、日本とアジア共生・共存の未来が開けるのではないでしょうか。その意味で、子供たちに正しい歴史を教える機会を最初から奪い、子供たちがアジアと和解・共生する可能性を妨害しようとする、安倍被告たちの不当・不法な行為を看過する訳にはいきません。彼らの行為は、日本全体の将来を危うくするものです。そのような連中に、この国の政治・舵取りを任せておく訳にはいかないとの思いがますます強くなってきます。

ドイツのワイツゼッカ−元大統領の言の通り「過去に目を閉ざす者は現実にも盲目になる」のです。そして「将来を誤る」のです。その真理を私達は決して忘れてはならないと信じます。

 

以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件 

準 備 書 面 (12)

 2007年5月6日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

原 告  T.I

 

真実を選ぶことはポジティブな行為 ―黒は黒であり白ではない

 

 本日この法廷にいらっしゃるすべての皆様には、市民運動に人生をささげているのでもなく、戦後補償問題の専門家でもなんでもない派遣労働者の私の「意見」を聞いていただくようになります。 

 まず、私は変えられることが決まってしまった教育基本法の第10条の存在を知ったのがつい昨年というお粗末さですが、仮に「つくる会」教科書がすばらしい教科書で真実しか記述しておらず、他の教科書の内容が欠陥だらけのフィクションを記述しているのだったとしても、根本的に政治家が圧力で特定の教科書を採択させるというのは不当であるので、この裁判を行っていることに意義があるのだと思います。ただ、やはりそうとわかっていましても、私は言語学者のノーム・チョムスキーのような達人ではありませんので、素晴らしい教科書の採択への政治家の不当介入だったのなら裁判への関わりに弱気になってしまっていたかもしれません。 

 日本政府が「慰安婦問題」に関して国際法論争の中で、国連人権委員会やILOの「日本政府に『法的責任あり』」という判断へ反論を繰り返してきている、などの事実を、無知な私は最近ようやく知りました。衝撃的な事です。 

「自分の所属する国家の戦争責任を認めることは自分とかつての国家との連続性を断つことによって他者の信頼を回復していくポジティブな行為」と哲学者の高橋哲哉さんがその著書の中で仰っていますが、この裁判の被告・特に安倍氏も、「自分の所属する党、議員の会、の教科書採択への不当介入を認めることは、自分と党・議員の会との繋がりを断つことによって原告の信頼を回復していくポジティブな行為」だということをわかってくださるとよいかと思います。それには、裁判官の皆様が、行政の圧力に屈せず真実を選ぶことは、たとえその道は困難をきわめても裁判官生命を蘇らせるポジティブな行為、つまりそれぞれのお方がご自身で後日この裁判を振り返られた時に決して悔やむことのない正しい行為、であることをお考えいただくことが関係してくると思います。

以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件 

準 備 書 面 (13)

2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

被告準備書面(2)の事務的なミス 

          ―被告の無意識(深層心理)が表すもの―

 

被告準備書面(2)には事務的なミスが多々見られる。以下列挙する。 

1.被告は第1の見出しで「日本の前途と歴史教科書を考える若手議員の会について」(以下、「若手議員の会という」)と表記しているが、これは「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の誤りである。

「誤り」というものは偶然起こるものではなく、無意識(深層心理)のいたずらであるというのが分析心理学の定説となっている。原告は認定カウンセラーの資格を持っているので解説する。人間は誰しも本人の意識では触れたくない心理を、隠しておきたいと意識することもなく心の奥底に眠らせているが、ふとした瞬間にそれが外に現れることがある。例えば「間違い」「ミス」「失言」などという形となって。

先ごろ問題になった厚労相の「女性は生む機械」発言などは非常にわかりやすい例であろう。だから間違いなどを自分の無意識を知る機会と捉えて自覚的に分析すれば、自分の深層心理を垣間見ることができる。ちなみに無意識がなせるいたずらで最も有名なものは「夢」である。夢からも無意識を探ることができるとされており、それを「夢分析」と呼んでいる。

はからずも被告はこの誤りによって、「議員の会」は名称こそ「歴史教育を考える」であるが、「考える」対象は「歴史教科書」に絞られることを暴露したのである。つまり「若手議員の会」は従来からの歴史教科書を「自虐的」であるとして、「新しい歴史教科書」を普及するという目的をもってつくられたのである。

この目的は「若手議員の会」単独で達成できるものではなく、同時期に結成された「新しい歴史教科書をつくる会」と一体になることによってのみ達成されるものである。つまりそれは、「つくる会」が「新しい歴史教科書」を作り、「若手議員の会」が政治的圧力をもってその採択を推進するという、どちらが欠けても達成できない目的で、「つくる会」「若手議員の会」は車輪の両輪のような関係にあるのである。この事件の真実を究明するにあたってはこのことを基本的に押さえておく必要がある。 

2.被告準備書面(2)第2の8(大学入試センターにも圧力)(1)に「第1文のうち被告安倍が若手議員の会の事務局長であることは否認し」とあるが、この違法行為の前、2004年2月「若手議員の会」は会の名称から「若手」を取り、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(以下、「議員の会」という)としたので、被告のこの表記は誤りである。

  この誤りは被告の無意識のなせる技というほど深遠なものではなく、単にこの事実を知らなかったか、ここで訂正するのを怠ったかのどちらかではないだろうか。 

3.第2の2、3、4の(1)の文章の後半の3行が「代表的な発言として引用した記載が本件著作物に記述されていること代表的な発言として引用した記載が本件著作物に記述されていることは認め、その余は否認ないし争う」となっており、日本語になっていない。これは、第2の1の(1)でも「代表的な発言として引用した記載が本件著作物に記述されていること」という文言が使われているので、これをワープロソフトでコピーし、貼り付けている際に起こったミスと推定される。 

このミスの原因は分析心理学を持ち出すまでもないであろう。同じ文言を別の項目にも使う場合、原告もコピー&ペイストすることはあるが、普通は読み返す時にミスに気づき、直すものである。しかし被告は3箇所も同じミスをしており、直していない。つまり一度も読み返していないのであろう。漢字の変換ミスや助詞の間違い、一字だけの間違いなら、前後の文脈から想像して読むことができるし、誰にでもある間違いなので、いちいち目くじらをたてるつもりはないが、このような一度読み返していれば気がつくはずのミスを直すこともできない被告は怠慢であり、やる気のないことを曝け出しているとしか言いようがない。 

しかも代理人は2人いるので、もう一人が読んでいればミスに気づいたはずである。つまり、この準備書面は書いた者も読み返していないし、書かなかった者の方はおそらくどんな準備書面を出したかさえ知らないのであろう。それで給料をもらう資格があるだろうか。その給料は税金である。原告の主張を認めないなら認めないで、もっとまじめにやってもらわなければ困る。 

裁判所にはこのような不誠実極まりない、やる気の全くない被告代理人に対して、厳しく注意してくださるようお願いする。 

以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (14)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

 「議員の会」結成趣旨自体が改定前の教育基本法第10条違反

 

被告は準備書面(2)第11「若手議員の会の結成趣旨」で、「若手議員の会」とは「中学校歴史教科書に従軍慰安婦の記述が載ることに疑問をもつ」若手議員が集まり、「歴史教育のあり方について研究・検討すると共に国民的議論を起こし、行動することを目的として発足した国会議員有志の研究会である」と述べている。 

さて、「議員の会」の結成趣旨は被告の述べた通りであるが、この結成趣旨そのものが改定前の教育基本法第10条に違反する違法行為であることを述べる。 

まず「従軍慰安婦」という用語について検証しておく。「従軍慰安婦」が英語に訳される場合は「wartime sex slavery」=直訳すると「戦争時性奴隷」または単に「sex slavery」(性奴隷)であり、「慰安婦」の訳語である「comfort women」は「日本の婉曲表現」と言われているように、原告は「従軍慰安婦」という言葉がその実態にふさわしくないと考えている。よってこの言葉に鍵カッコを付すものとする。 

「従軍慰安婦」については、1992年1月、吉見義明教授によって防衛研究所図書館から資料が発見され、政府はそれまでの「民間業者が連れ歩いた」という立場を翻し、宮沢喜一首相(当時)がその直後の訪韓時に盧泰愚大統領に「お詫び」を表明した。以後、政府は92年、93年の2回にわたり調査結果を公表して、全容解明とは言えないまでも、軍・政府関与と強制性を認めた。1993年8月4日には「河野談話」が発表され、以後この談話は日本政府の公式見解となっている。 

河野談話には「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」とあり、これを受けて、歴史教科書に「従軍慰安婦」がとりあげられるようになったのである。つまり、歴史学者による研究、政府の調査、政府の見解をもとに「従軍慰安婦」は教科書に載っているのであり、そこには正当な根拠がある。それを自分の気にくわないからと言って「自虐的」などといちゃもんをつけ、削除させようなどとすることはまるで幼児がだだをこねていると同様の愚かな行為である。 

さらに15年にわたって争われてきた「慰安婦」裁判はほとんどが敗訴したが、これまでに提訴された9つの裁判のうちフィリピン、台湾を除く7つの裁判で軍の関与・強制性・被害事実が、被告国と原告被害者双方の「争いのない事実」として、あるいは証拠に基づいて認定されている。いわゆる「下関裁判」(正式名称は「釜山従軍慰安婦・女子勤労挺身隊公式謝罪等請求事件」)では「立法不作為による国家賠償を認め」た画期的な判決も出された。ここからは政府にたてつくことができず、敗訴にせざるを得ない裁判官の良心のうめきが聞こえてくるのである。【甲第21号証の1、2】 

ここには事実認定の例として、アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件、2003年7月22日の東京高裁の判決文より引用する。

 

第4、当裁判所の判断

1、本件の背景事情及び控訴人らないしその関係者各自についての事実経過についての判断

(一)本件の背景事情の概略について

(2)本件の背景事情のうち争いのない事実と証拠(甲1、3ないし5、48の3、68、証言吉見義明)によれば、次の事実が認められる。

ア 旧日本軍においては、昭和7年(1932年)いわゆる上海事変の後ころから、醜業を目的とする軍事慰安所(以下たんに「慰安所」という。)が設置され、そのころから終戦時まで、長期に、かつ広範な地域にわたり、慰安所が設置され、数多くの軍隊慰安婦が配置された。

当時の政府部内資料によれば各地における慰安所の開設の理由は、旧日本軍占領地域内で旧日本軍人が住民に対し強姦などの不法な行為を行うことを防止し、これらの不法な行為によって反日感情が醸成されることを防止する必要性があることなどとされていた。

 イ 軍隊慰安婦の募集は旧日本軍当局の要請を受けた経営者の依頼により、斡旋業者がこれに当たっていたが、戦争の拡大とともに軍隊慰安婦の確保の必要性が高まり、業者らは甘言を弄し、あるいは詐欺脅迫により本人たちの意思に反して集めることが多く、さらに、官憲がこれに加担するなどの事例も見られた。

   戦地に移送された軍隊慰安婦の出身地は、日本を除けば、朝鮮半島出身者が大きな比重を占めていた。

 ウ 旧日本軍は、業者と軍隊慰安婦の輸送について、特別に軍属に準じて渡航許可を与え、また、日本国政府は軍隊慰安婦に身分証明書の発給を行っていた。

エ 慰安所の多くは、旧日本軍の開設許可の下に民間業者により経営されていたが、一部地域においては旧日本軍により直接経営されていた例もあった。民間業者の経営については、旧日本軍が慰安所の施設を整備したり、慰安所の利用時間、利用料金、利用に際しての注意事項等を定めた慰安婦規定を定め、軍医による衛生管理が行われるなど、旧日本軍による慰安所の設置、運営、維持及び管理への直接関与があった。

  また、軍隊慰安婦は、戦地では常時日本軍の管理下に置かれ、旧日本軍とともに行動させられた。

オ 宣戦の拡大の後、敗走という混乱した状況の下で、旧日本軍がともに行動していた軍隊慰安婦を現地に置き去りにした事例もあった。 

(引用ここまで)

 

 山口地裁下関支部は1998年4月27日、釜山従軍慰安婦・女子勤労挺身隊公式謝罪等請求事件判決で、「事実問題」の部分に1993年8月4日の内閣官房内閣外政審議室による「いわゆる従軍慰安婦問題について」にある事実認定の部分を引用し認定した後、次のように述べている。

 

第三 法律問題

四 立法不作為による国家賠償請求について

3 そこで、以上の見地に立って本件につき検討を加える。

(一)従軍慰安婦について

 B しかしながら、従軍慰安婦に対する人権侵害の重大性と現在まで続く被害の深刻さを鑑みると、次のような解釈が可能と考える。

   従軍慰安婦制度は、その当時においても、婦人及び児童の売春禁止に関する国際条約(1921年)や強制労働に関する条約(1930年)上違法の疑いが強い存在であったが、単にそれのみにとどまらず、同制度は、慰安婦原告らがそうであったように、植民地、占領地の未成年女子を対象とし、甘言、強制等により本人の意思に反して慰安所に連行し、さらに、旧軍隊の慰安所に対する直接的、間接的関与の下、政策的、制度的に旧軍人との性交を強要したのでもあるから、これが二十世紀半ばの文明水準に照らしても、極めて反人道的かる醜悪な行為であったことは明白であり、少なくとも一流国を標榜する帝国日本がその国家行為において加担すべきものではなかった。にもかかわらず、帝国日本は、旧軍隊のみならず、政府自らも事実上これに加担し、その結果として、先に見たとおりの重大な人権侵害と深刻な被害をもたらしたばかりか、慰安婦原告らを始め、慰安婦とされた多くの女性のその後の人生までをも変え、第二次世界大戦終了後もなお屈辱の半生を余儀なくさせたものであって、日本国憲法制定後五十年余を経た今日まで同女らを際限のない苦しみに陥れている。

(引用ここまで)

 

 このように「従軍慰安婦」問題は日本政府としてその事実を認定しているものであり、被告安倍も2006年10月6日衆議院予算委員会で「河野談話」を「私を含め、政府として受け継いでいる」と答弁した。【甲第22号証】

この時も被告安倍は「狭義の強制連行については証拠がない」などとぶつぶつ言っていたが河野談話では「強制連行」を認定しており、そこに「広義」も「狭義」もない。被告安倍は「狭義」を「家に乗り込んでいって強引に連れて行ったのか」とし、「広義」を「自分として行きたくないけれどそういう環境の中にあった、結果としてそういうことになった」と表現しているが、「狭義」と「広義」にそんなにこだわるのはなぜか? 「狭義」の強制連行がなければ、日本政府の責任がないと言いたいのか? 責任逃れのためにこじつけているとしか見えず、首相として醜悪であり、こんな幼児のような人物を首相にしているのかと思うと、穴があったら入りたい思いである。 

もしも「狭義」の強制連行がなかったとしても「広義」の強制連行だけで十分に日本政府には責任があるのである。それをこんなふうに「だだをこねている」様子は、目の前で散らかしているところを見られていたのに「片付けなさい」と言われると「オレ、やってないもん」と言う幼い子どもを連想してしまう。本当に幼児なのである。それを自覚していないからポロポロと幼児性を出し、2007年3月にも、「従軍慰安婦」強制連行の証拠はないなどと発言し、英字新聞に叩かれている。3月中にジャパンタイムズ紙に8回、インターナショナルヘラルドトリビューン紙には5回、関連記事が掲載された。ロサンゼルスタイムズ紙も日本政府は「慰安婦」に対して法的にも道徳的にも償うことが求められているという記事が掲載された。【甲23号証】

アメリカ下院でも「慰安婦」決議が検討されたのは、耳に新しいが、このままでは日本は国際社会から孤立するのは火を見るよりも明らかである。否、すでに孤立しているのであろう、知らぬは本人ばかりなりである。

 

結語 

 以上述べてきたように「従軍慰安婦」問題は日本政府として事実認定したものである。それにもかかわらず単にそれが気に入らないという感情的理由のみで歴史教科書から「慰安婦」記述を削除させ、「新しい歴史教科書」普及を目的とした「議員の会」を結成した(準備書面(131.参照)のだから、結成趣旨自体が改定前の教育基本法第10条違反であることは明らかである。 

教育は政治から独立したものでなければならない。このタガをはずしてしまうと、戦争で儲けたい財界とつるんだ強大な権力を持った政治家の思惑によって、国は再び侵略への道を突き進み、世界中に迷惑をかけ、他国民および自国民を殺すことになるのである。

政治家が教育に口出しすること、ましてや戦争教育の根幹に関わる歴史教科書を、その圧力をもって思いのままにすることは、教育基本法第10条が禁じた「教育への不当な介入」以外の何ものでもない。

 

裁判所は良心に基づき公正な判断をされるようお願いする。 

以上 


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (15)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

  

被告準備書面(2)第2 1、2、3、4の(2)に対する反論

   ―被告安倍等の行ってきた「議員の会」による「圧力・恫喝」は、

改定前の教育基本法第10条違反―  

  

被告らは準備書面(2)で、原告準備書面(5)の

1.中学校歴史教科書の「従軍慰安婦」という記述を削除しろと文部省に圧力

2.教科書会社にも「誰の責任か?」と恫喝

3.内閣外政審議室に圧力

4.吉見義明中央大学教授にも圧力

について、「価値観の対立から多少激しいやりとりになったとしても、そのやりとりをして『恫喝』と評する原告らの主張は失当である。」等と主張する。

被告代理人は、「激しいやりとり」というが原告準備書面(5)において、詳述したように、被告安倍と「議員の会」の国会議員らが、政治権力を背景に、一方的に「激しい」言葉・発言で迫ったのである。とうてい両者の間での「やりとり」と言えるようなものではない。このように、後に首相となるような有力国会議員・政治家安倍晋三が事務局長を務める政治家集団の会合に呼び出されて浴びせられる「激しい」言葉・発言は、「圧力・恫喝」という評価を免れない。

有力国会議員・政治家の決して激しいとは言えない言葉ですら、当事者にとって不法行為をすら犯させる「圧力・恫喝」となることは、いわゆるNHK番組改変事件によって明らかである。 

NHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体バウネットがNHKなどに損害賠償を求めたいわゆるNHK番組改変事件の控訴審判決平成16年(ネ)第2039号 損害賠償請求控訴事件(原審 東京地方裁判所 平成13年(ワ)第15454号)は、損害賠償を認める判決を下した。判決は、NHKが番組を放送直前に改変するにいたった事実関係を詳細に認定した上で、不法行為にあたるとして損害賠償を命じたのである。判決においては、本件被告安倍晋三を含む有力国会議員・政治家の圧力によって、巨大組織NHKが不法行為を犯すように追い込まれるに至った事情が詳細に認定されている。

【甲第24号証】 

判決によると、安倍晋三ら国会議員と面談したのは、NHKの幹部職員である松岡重臣総合企画室担当部長、松尾武放送総局長、野島直樹総合企画室担当局長の三名である。この三名が連れだって、国会議員を一人一人個別に訪問しているのである。 

当時官房副長官であった安倍晋三は、松岡ら三名のNHK幹部職員を前にして、いわゆる従軍慰安婦問題について持論を展関したのである。その言葉は、「先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で人を攻めてきて. 「勘ぐれ, お前」みたいな言い方をした部分がある」というものである。直接的な「圧力・恫喝」を加えるために声を荒らげて詰め寄るなどの「激しい」言葉遣いなどはないのである。 

しかし、そのようなソフトな発言であっても、有力国会議員・政治家の言は、「松尾と野島が相手方の発言を必要以上に重く受け止め, その意図を忖度してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み, その結果, そのような形にすべく本件番組について直接指示, 修正を繰り返して改編が行なわれた」と認定される威力をもっているのである。 

本件における被告ら準備書面(2)が「激しい」と認める発言等は「その意図を忖度」するまでもなく、「圧力・恫喝」であることを再度確認のために主張する。 

 

1.中学校歴史教科書の「従軍慰安婦」という記述を削除しろと文部省に圧力

第2回会合(1997年3月6日)に、遠藤昭雄文部省官房審議官・初等中等教育局担当(当時)と高塩至文部省初等中等教育局教科書課長(当時)を呼びつけて、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(以下「議員の会」という)の国会議員が居並ぶ中で、武部勤氏や衛藤晟一幹事長(当時)新藤義孝氏渡辺博道氏、木村義男氏が、次々と発言したのである。彼らは大臣、政務官として、文部官僚である遠藤・高塩両氏の直属の上司と成り得る立場の国会議員である。のちに行政の長である首相となるような有力政治家である被告安倍晋三が「議員の会」の事務局長であることは、圧力の隠然たる一部分である

その彼らから、「従軍慰安婦」という記述について、「ゴミみたいな言葉を拾い上げてきて、なぜあげるんだ。それはどうなんだ」「『従軍慰安婦』の記述が文化・伝統を守るのであればいいけど、守らないんであれば、即刻削除しろ。」等と声を荒らげて詰め寄られたのである。

このように「激しい」言葉・発言でせまられたことは、その意図を忖度」するまでもなく、「圧力・恫喝」以外のなにものでもない。【甲第10号証】 

2.教科書会社にも「誰の責任か?」と恫喝

被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は第3回会合(1997年3月13日)に高塩至文部省初等中等教育局教科書課長(当時)、丁子惇社団法人教科書協会会長(当時)、漆原利夫社団法人教科書協会常任理事(当時)を呼んで、「教科書作成の問題点と採択の現状について」と題して、議論を行った。

安倍晋三事務局長(当時)はこの第3回会合の司会を務めて、自ら発言するばかりでなく、教科書会社に対する「圧力・恫喝」の場を主宰した。

この第3回会合は、衛藤晟一幹事長(当時)の「別に圧力をかけるような気持は全くありませんのでね」という発言を引くまでもなく、有力国会議員・政治家で構成される「議員の会」の持つ権力を「圧力」とし、教科書会社に記述の変更を迫るためのものである。

被告安倍は、司会者の役割を超えて、直接出席した教科書会社らに、「強制連行についてはなかった、というのが政府の公式の回答であります」とし、「それがあったかのように教科書に載せるということをどう考えておられるのか」と問い詰めた。

 

その上で、被告安倍は議員の会の会員である国会議員らに、「強制連行はなかったということがはっきりしているのだから、内容を変えろ」「真実に目を塞ぐ気だな」「現実は単なる言葉の遊びでやっているだけ」等と恫喝を加えさせた。あまつさえ、「でき上がったら、それはもう完全に・・・。課長さん、法律上、社長さんの責任? 出版社の責任? 編集者の責任? そのへんちょっと教えてちょうだい」と法的責任について追及するかのような発言を許した。

 

政治権力を持つ国会議員から発せられる、意に沿わない時には法的責任を追及されかねないような発言は「圧力・恫喝」のなのものでもない。被告安倍が、この会合を司会者として主宰し、司会者としての役割を超える発言によって、会合自体を「圧力・恫喝」の場とした責任を負うのは明らかである。【甲第11号証】

 

3.内閣外政審議室に圧力

被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、第4回会合(1997年3月19日)に平林博内閣外政審議室長(当時)、東良信内閣外政審議室審議官(当時)を呼んで、「いわゆる従軍慰安婦問題とその経緯」と題して議論を行い、内閣外政審議室に圧力をかけた。

この会合は、いわゆる従軍慰安婦問題についての政府の公式見解である「河野官房長官談話」について、内閣外政審議室長、同審議官に圧力をかけることで、両名からなんらかの「河野官房長官談話」を否定するような言質を取り付けようとして開かれたものである。

「議員の会」の会員である国会議員らは、政府が自ら調査し、その調査に基づく「河野官房長官談話」をもっぱら非難する。政府調査は、政府調査「慰安婦」関係資料集成全五巻(女性のためのアジア平和国民基金編 )として、公刊されている。彼らは、「河野官房長官談話」を基礎づける政府調査について具体的に誤り等を指摘することなく、「おかしい」「間違っている」という自己の思い込みを繰り返し披瀝するばかりである。

政府調査「慰安婦」関係資料集成全五巻(女性のためのアジア平和国民基金編 )は、外務省関係公表資料・警察庁関係公表資料・防衛庁関係公表資料・厚生省関係公表資料・大英帝国戦争博物館所蔵資料・国立公文書館所蔵資料・国立国会図書館所蔵資料・米国国立公文書館所蔵資料によって構成されている。これら公文書の分析結果等によって「河野官房長官談話」が発せられたのである。

「河野官房長官談話」を否定したいのであれば、これら公文書の分析結果等への具体的批判をしなければならないのである。しかし、「議員の会」の会員である国会議員らは、根拠を挙げることなく「おかしい」「間違っている」と繰り返すことで、「河野官房長官談話」を否定させようとしている。これは、もっぱら「議員の会」が国会議員によって構成されていることで生じる政治圧力によって、平林博内閣外政審議室長(当時)、東良信内閣外政審議室審議官(当時)に「河野官房長官談話」を否定させようとするものである。【甲第12号証】

 

4.吉見義明中央大学教授にも圧力

被告安倍晋三が事務局長であった「議員の会」は、第5回会合(1997326日)に吉見義明中央大学教授を呼んで、「慰安婦記述をめぐって」と題して議論を行った。

しかし、その実態は自見庄三郎座長が、「先生の思想の大変大事なところだと思うんです。きちっとお答えいただければと思います」と詰め寄ったように、吉見教授に対する思想調査以外のなにものでもない。

憲法にすら抵触する思想調査を行えるのは、自らの政治権力に頼むところがあるからである。これは、いわゆる慰安婦問題で「議員の会」を構成する国会議員の意に沿わない学者を呼びつけて、学問の自由を保障する憲法第23条に抵触する思想調査まがいの会合を開くこと自体が、学問に携わる全ての人への圧力と成り得る暴挙である。

「議員の会」を構成する国会議員らが、政治権力を背景とする「圧力・恫喝」によって、吉見義明中央大学教授を追い詰めて自説を曲げさせようとしたことは明らかである。被告安倍らは、このような「議員の会」の存在を許し、「圧力・恫喝」を加えるための会合を開催した責任を負わねばならない。【甲第13号証】

 

また、いわゆる慰安婦裁判において、旧日本軍よって引き起こされた被害事実がどのように認定されているか。また、それが被告安倍を含む「議員の会」を構成する国会議員の認識といかに甚だしく乖離しているかは、準備書面(14)において詳述したところである。

 

結語

原告準備書面()では、

 5.中曽根弘文文部大臣に圧力

 6.教科書検定基準に圧力

 7.教科書採択への介入を公然と表明

 8.大学入試センターにも圧力

 9.河村文科相に「近隣諸国条項」削除を求め圧力

 10.文科省、政治家団体の圧力に屈服 

についても、被告安倍らの「圧力・恫喝」であることを主張している。

しかし、被告らは準備書面(2)において、5〜10については答弁書のごとき内容を記述するのみである。これは、被告ら代理人の怠慢を疑わざるを得ない状況である。

 以上、見てきたように被告安倍が事務局長を務める「議員の会」が行ってきたことは、直接的な「圧力・恫喝」である。NHK番組改変事件によって、被告安倍の言葉は直接的な「圧力・恫喝」でなくとも、「必要以上に重く受け止め, その意図を忖度」させるだけの威力があり、結果として相手方に不法行為を犯させるものであることは明らかである。それならば、「議員の会」として被告安倍らが行ってきた言動が「圧力・恫喝」であることに疑いを差し挟む余地はない。

裁判所におかれては、被告安倍等の行ってきた「議員の会」による直接的な「圧力・恫喝」は、すべて改定前の教育基本法第10条(改悪教育基本法では第16条)違反であるとする判決を下されるように求めるものである。                  

 以上

 


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件 

準 備 書 面 (16)

 

2007年5月21

東京地方裁判所民事第43部 御中

             

被告準備書面(2)への反論 

「議員の会」は自民党政治団体であり、教育への介入の急先鋒となった団体である
 

1.      被告準備書面()の第1−1「若手議員の会の結成主旨」への反論

被告準備書面(2)によると、「日本の前途と歴史教科書を考える若手議員の会」(下線部は「歴史教育」の誤り。2004年2月以降は、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」以下、「議員の会」という)は、「歴史教育のあり方について真剣に研究・検討すると共に国民的議論を起こし、行動することを目的として発足した国会議員有志の研究会である」とのことである。

「議員の会」は「研究会」とのことであるが、学術論文を学会等に発表しているとはついぞ聞いたことがない。この研究会は、とくに「従軍慰安婦」問題について高い関心を示しておられるが、その研究テーマに基づく調査が学術的に、あるいは国際的に評価を受けたという報道も耳にしたことがない。研究会であれば、論文や調査記録、あるいは、論文が掲載された学会誌等、何らかの研究成果を示していただきたい。

一般に知られている「議員の会」の活動は、主に、政府、学会、メディア等への「提言」と称する圧力行為である。いくつかは、先に陳述した準備書面()の通りで、「議員の会」は、歴史教科書や「従軍慰安婦」の記述について、文部省や総理大臣、大学入試センター等へ、一方的な見解を「提言」している。このほか、被告安倍はNHK番組「問われる戦時性暴力」への政治介入事件で東京高裁において「相手方の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度」されたと事実認定された。(準備書面(15)に詳述)

つい先頃も、被告・安倍晋三首相が、「従軍慰安婦」問題に関し「強制性を裏付ける証拠はなかった」と発言し、米国下院にまで波紋を及ぼしたが、この時も、「議員の会」は、「数々の『慰安婦』問題に対する誤った認識は、河野談話が根拠となっている」との見解を盛り込んだ提言をまとめ、政府に提出した。のみならず、自民党は、対日非難決議阻止のため「議員の会」を米国へ派遣しようとまでした(これは中止となった)。【甲第25号証】

野鳥研究会が文部科学省や教科書会社に提言を送り付けるだろうか。地域のテニス同好会がテニス連盟に「ルールを我々のやり方に変えなさい」と提言するだろうか。但し、自民党有志の野鳥研究会ならば文部科学省に「理科の教科書にヤタガラスを掲載せよ」と提言する可能性は否定できない。しかしそれはやはり「不当な介入」である。

「議員の会」は、研究会などではない。「『従軍慰安婦』はなかった」ことにするための政治団体である。彼らの研究では結論が先にある。「『従軍慰安婦』があった」という証拠は彼らの耳や目には入らない。例えば、証拠【甲第26号証】に示されるような、従軍慰安婦の事実と、軍の強制性を裏づける東京裁判に提出された各国検察団の証拠資料(東京大学社会科学研究所図書館所蔵)に、多少でも被告らは目を通したことがあるのだろうか。目の前で「従軍慰安婦」が人権を蹂躙されていても彼らは認めないのではあるまいか。あえていえば、彼らの研究テーマは「『従軍慰安婦』をなかったことにするにはどうしたらいいか」というものであろう。これを「歴史教育のあり方についての研究」と称しているのだから言葉とは便利なものである。 

 

2.被告・準備書面()の第1−2「若手議員の会の性格」への反論

被告陳述によると、「若手議員の会」は、「法人格を有する団体ではなく、権利能力なき社団にも該当せず、国会議員有志個人の集合体に過ぎない」とのことである。法人登記をしていないというのなら、確かに「若手議員の会」は「法人格を有する団体」ではないだろう。それでは、「権利能力なき社団にも該当せず、国会議員有志個人の集合体に過ぎない」のだろうか? 

「若手議員の会」が「歴史教科書への疑問」(本件著作物)を「若手議員の会」編として出版していることは、被告側も認識しているところである。それでは、本件著作物を出版するにあたり、だれが出版するという決断をしたのか? 展転社との出版契約はだれが行ったのか? だれが本件著作物を著述したのか? 本件著作物の著作権は誰に帰属するのか? 本件著作物により発生した印税等はだれが収受するのか? 

これらは全て「権利能力なき社団」である「若手議員の会」が行ったに相違ない。出版を決断するための総会等が開かれて、多数決の原則が行われたとするのが自然である。出版契約は「若手議員の会」を代表していると展転社が認識できる人物を通して行われたに相違ない。これは、代表の方法が定まっていることを意味している。もしそうではなく、あくまでも「若手議員の会」が「国会議員有志個人の集合体に過ぎない」のなら、本件著作物の出版はどのように行われたか。著作権の管理をどのように行っているのか。印税の管理はどうしているのか。具体的に答えていただきたい。 

また、被告側代理人は被告安倍が「若手議員の会」を休会しているとするのは、構成員の変更に関わらず団体が存続していることを示している。このように「若手議員の会」は、「団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更に関わらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理など団体としての主要な点が確定していることを要する。(最判昭39年10月15日)」という要件を満たしているので、「権利能力なき社団」である。 

そして実際には、「議員の会」は、どんな法人格を有する団体よりも、放縦に権力を行使している団体である。1.で述べたように、「議員の会」は総理大臣や文部科学大臣とじかに話のできる自民党議員で構成された団体である。彼ら「議員の会」は、米国下院にまで乗り込もうとしたように、他国の国会にまで影響力を及ぼせると自ら考えているのである。私たち原告、おそらく裁判官の皆様にも到底できないことを、彼らならできる。なぜか。権力をもつ自民党国会議員だからである。

 

3.被告・準備書面()の第1−3「若手議員の会と被告自民党との関係」への反論

陳述によると「議員の会」は「自民党とはなんらの関係も有しない」とのことである。笑止千万な話である。議員の会のメンバー全員が、昨今自民党を離党したというニュースを耳にしたなら、「なんらの関係も有しない」という陳述も再考するに価するが、そのようなグッド・ニュースは未だ耳にしていない。先に述べたように、「議員の会」は自民党有志の集まりである。

原告は、このような「おたまじゃくしは蛙と何ら関係もない」というような議論に多くの時間を割くことを無用と考える。日頃、時間の有効利用を大切に考える裁判官の皆様も同意見ではありますまいか。このような、おたまじゃくしと蛙の関係議論に時間も紙面も割くことを原告は遺憾に思うが、あえて、以下のことだけ申し述べておく。

【甲第2号証】の「史」(「新しい歴史教科書をつくる会」会員誌)2004年7月号P20には以下のように書かれている。

「『従軍慰安婦』問題をきっかけに、歴史教科書の現状を憂えて立ち上がったのが、自民党の国会議員でつくる『日本の前途と歴史教育を考える議員の会』(古屋圭司会長)です。」(下線は原告による)【甲第2号証】

同様に、朝日新聞、産経新聞、どのメディアが取り上げる時も、「議員の会」には、「自民党有志の」が前に付く。「議員の会」はしばしば自民党本部で会合を開く自民党の団体であり、自民党の教育への介入を積極的に行う急先鋒として重要な役割を果たす自民党団体である。【証拠甲2527号証】よって、「議員の会」は自民党と「大いに関係がある」のであり、「自民党とはなんら関係がない」という被告らの主張は失当である。

被告らは、「議員の会」の構成員を「国会議員有志」と述べているが、「自民党国会議員有志」と訂正することを要求する。

 

4.被告・準備書面()の第1−4「事務局長の職務」への反論

陳述によると、「若手議員の会」の事務局長の役割は「事務連絡及び会合の進行」であり、平成127月に議員の会を休会した、とのことである。

先の準備書面(5)に述べたように、「議員の会」事務局長であった安倍被告は、19991216日に、産経新聞に対して「議員の会」のスポークスマンとして写真入りで取材に答えている。【甲第14号証】事務局長の役割が「事務連絡」と「会合の進行」のみではなく、代表ともみなされる立場であったことが証明される。安倍被告の、議員の会における責任の大きさに比例した功績が、現在の安倍被告の地位の礎ともなっている。

また、現在、安倍被告は「議員の会」を休会しているとのことであるが、脱退したのではない。現在でも密接な関係にあるということで、実際に、安倍内閣や話題の教育再生会議のメンバーには「議員の会」の会員が目立って多い。
 
なお休会というのは、どういう状態を意味するのか、釈明を求める。会員、休会、脱退の違いの説明、及び、休会とは会と「何ら関係がない」ということではなく、「何か関係がある」という意味であることの認否を求める。

 

5.被告・準備書面()の第1−5「若手議員の会の勉強会と国会議員の発言」への反論

ここで「勉強会」と称しているものの実態は、政府自らが発表した河野談話さえをも自分の感情的な衝動で覆そうとするやからが、国会議員の座を悪用し、文科省、内閣外政審議室、教科書会社、歴史学者などなどに、学問的根拠もない一方的な発言を繰り返し、見解を押し付け、圧力をかけ、恫喝するものである。「勉強会」を行う学問の徒にあるまじき態度である。自らの国会議員たる立場を鑑みれば、それが教育への不当な政治介入に当たることは明白である。

 

6.被告・準備書面()の第1−6「『歴史教科書への疑問』の発行と事務局長の役割」及び第2−1−(3)への反論

 被告らは、『歴史教科書への疑問』の記載の事実は認めるが、「議員の会」編集の本なのに、編集人・発行人ではないから、安倍被告には責任がない、と言う。安倍被告は「議員の会」の事務局長であり、4に述べたとおり「代表」ともみなされる人物であった。「議員の会」編としてあるなら、責任があるのは当然ではないか。

なお、原告が安倍被告に主として問うているのは、本の発行に関する責任ではない。原告が問題にしているのは、『歴史教科書への疑問』に記載された事実(準備書面()に示した事実)に関する責任である。まずは、記載された言動に関する安倍被告の認否を求める。

 

7.被告・準備書面()の第2−5「第5項(中曽根弘文文部大臣に圧力)について」への反論

被告陳述によると、「政治家がよりよい政治を行うために意見等を政府に申し入れることは正当な議員活動にほかならず」とのことである。

しかし、「政治家がよりよい政治を行うために意見等を政府に申し入れることは正当な議員活動にほかならず」という言葉は教育には当てはまらない。全く逆で、これは改定前の教育基本法第10条違反なのである。訴状に引用した教育基本法成立直後に、その立案の任にあたった当事者たちが書き、立法意思を明らかにした解説書(文部省教育法令研究会著『教育基本法の解説』)が教育基本法第10条についてなんと記述していたか。

 戦前教育は「教育行政が教育内容の面にまで立ち入った干渉をなすことを可能にし、遂に時代の政治力に屈して、極端な国家主義的又は国家主義的イデオロギーによる教育・思想・学問の統制さえ容易に行われるに至らしめた制度であった」(『教育基本法の解説』126127ページ)

読み返してみると、現在がまさに、怒涛のように「教育行政が教育内容の面にまで立ち入った干渉を」なし、すでに「時代の政治力に屈して、極端な国家主義的又は国家主義的イデオロギーによる教育・思想・学問の統制さえ容易に行われる」道を歩み始めていることを実感させられる。この歩みを強力に推し進めてきたのが、他ならぬ、被告安倍や議員の会である。

被告安倍は「戦後レジーム」からの脱却を目指しているが、「戦後レジーム」とは日本国憲法に代表される、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重であり、民主主義である。被告安倍が「戦後レジーム」から脱却して行き着く先は戦前であり、国家主義、軍国主義、思想統制・・・である。

われら原告はそんな被告安倍に加担することは絶対にできない。

以上


 平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (17)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

誰が見ても常識的かつ当然である事実 

 

 被告は準備書面(2)第1において、

(1)若手議員の会は「国会議員有志の研究会」であり、「国会議員有志個人の集合体に過ぎない」

(2)若手議員の会は被告自民党とはなんらの関係も有しない

(3)被告安倍が務めていた事務局長は単なる「事務連絡及び会合の進行」の役割であり、しかも2000年7月からは被告安倍は若手議員の会を休会した

等々と主張している。

 

これは裏を返せば、

(1)若手議員の会がただの集合体ではなく、法人や「権利能力なき社団」であったり

(2)自民党と関係があったり

(3)事務局長がもっと責任のあるポストだったら

圧力団体としての行為に違法性があり、この裁判で不利になると認識しているということである。

 

 このことについて被告は認知せよ。

 

また、被告は第2においてそれぞれのケースについて「圧力」でもなく「恫喝」でもないと主張している。 

つまり、若手議員の会が圧力行為を行った場合には違法性があると認識しているということである。

 

このことについて被告は認知せよ。

 

 そして、争点として誰が見ても常識的かつ当然である事実

(1)若手議員の会はただの集合体ではない。

(2)若手議員の会は自民党議員で構成されているゆえ、自民党と関係がないとは言えない。

(3)事務局長はただの「事務連絡及び会合の進行」係ではなく責任のあるポストである。

(4)後に首相になるような強大な権力を持った被告安倍や安倍につながる大物自民党議員の言動はNHK裁判で認定されたようなソフトなものであっても「圧力」「恫喝」と認定される。(準備書面(15)に詳述)

 

等々を否定するだけの証拠、根拠は被告側に見当たらないので、被告の主張は失当である。だから、このようなわけのわからない意味の通じない準備書面しか書けないのである。 

以上 


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (18)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

被告準備書面(2)第1に対して質問および反論 

―日本語として成り立っていない準備書面― 

 

1、第1の1 「若手議員の会の結成趣旨」について

 

(1)戦後世代を中心とした若手議員が、政府が自身の調査に基づき「従軍慰安婦」を認定した「河野談話」に疑問を持つのはなぜか? その根拠を示されたい。 

(2)若手議員が考える「日本の前途」とは何か? 具体的に示されたい。 

(3)「健全な青少年育成のため」の「健全な青少年」とはどういう青少年を指すのか? 具体的に示されたい。 

(4)若手議員の会が「歴史教育のあり方について真剣に研究・検討すると共に国民的議論を起こす」目的は何か? 具体的に示されたい。 

(5)「行動する」とは何をすることか? 具体的に示されたい。

 

2、「若手議員の会の性格」について 

(1)「国会議員有志個人の集合体に過ぎない」(下線は原告による。以下同じ)とはどういう認識から出た言葉か? 被告安倍を含む「若手議員の会」の「個人」は、若手であるにもかかわらずたった一人で文部省官僚、教科書協会会長、内閣外政審議室長、大学教授、文部大臣らを呼びつけて恫喝し、圧力をかけることができると思っているのか? 「集合体」という数の力を頼みにして先輩、年長者に対し恫喝、圧力をかけるという政治のしくみそのままを実行したのではないか? それなのに「集合体に過ぎない」とまで自虐的な言い回しをする根拠を説明されたい。

 

3、「若手議員の会と被告自民党との関係」について 

(1)若手議員の会が被告自民党となんらの関係も有しないことを、証拠をあげて証明されたい。

 

4、「事務局長の職務」について 

(1)被告安倍が若手議員の会を休会したのは現在に至るものか?

 

5、若手議員の会の勉強会と国会議員の発言 

(1)講師として招いた「異なる立場の者」の名前を具体的にすべて教えていただきたい。 

(2)若手議員の会の「各委員が個人の見識に基づいて行っている」発言には誰が責任を持つのか? 

 

  被告準備書面(2)で意味のわからないところを挙げてきたが、2ページ目ですでにこんなにわからない点があり、被告の準備書面(2)は日本語として成り立っていない。 

以上のことをふまえて、次のことは誰が見ても当然の事実であろう。

 

(1)若手議員の会はただの集合体とは言えない。

(2)若手議員の会は自民党議員で構成されているゆえ、自民党と関係がないとは言えない。

(3)事務局長・安倍はただの「事務連絡及び会合の進行」係ではなく重責のあるポストである。

(4)後に首相になるような強大な権力を持った被告安倍や安倍につながる大物自民党議員の言動は、NHK裁判で認定されたようなソフトなものであっても「圧力」「恫喝」と認定される。(準備書面(15)に詳述) 

この4点を否定することは無理であるので、被告には主張する真実としての内容がない。それでこのようなわけのわからないこじつけに終始し、意味の通じない準備書面が提出されたと思われる。よって被告に、以上の質問に日本語として明確に通じる回答をいただきたい。

また、被告は今後の準備書面を書く際、論点をずらさず、原告の主張をきちんと受けとめ、まじめに向かい合って反論することを求める。

 

松井裁判長もこのことを被告に厳重に注意されたい。 

以上 


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (19)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

大人たちの責任  ―安倍の暴走を止めよう―

 

 準備書面(18)を書いている最中に、愛知県長久手町 で23歳の機動隊員が、籠城男に撃たれて亡くなられたというニュースが飛び込んできた。林一歩さんは防弾チョッキのわずか1センチのすきまに被弾して亡くなったのである。生まれたばかりの赤ちゃんと新妻を残して・・・【甲28号証】

 

この事件を聞いてすぐに戦争と同じだと思った。戦争ではこの事件は日常茶飯なのである。林さんは警官に憧れ、志願したのだが、戦争は有無を言わせず若者を拉致していく。そう、「拉致」なのだ。安倍晋三首相はあのように拉致問題に熱心なのに、自国の若者を拉致していくことにはなんのためらいもない。そして「拉致」であることを隠すために「妻子を守るため」と言う。大うそである。林さんの残された赤ちゃんと妻はこれからの長い人生をいつまでも消えることのない悲しみを抱きながら、さびしく、苛酷な状況で生きていかなければならないのである。それは2階級昇進することや、靖国神社に祀られることによって埋め合わせのできるものでは決してない。 

敗戦後日本は日本国憲法に守られ、防弾チョッキのわずか1センチのすきまに被弾して命を落とす若者を出さずにすんできた。被告安倍は教育基本法改悪、防衛庁の省への昇格、国民投票法案強行採決、米軍再編(日米軍事同盟強化)、とアメリカの命ずるままに侵略のできる国への道を突進している。普天間基地移転問題では辺野古での調査を始めるべく、市民の抵抗をやめさせるため海上自衛隊まで派遣(民間人に軍が自決を強要した沖縄戦と同じ構造である。しかも舞台は同じ沖縄)、教育3法も強行採決し、参議院議員選挙の争点として憲法「改正」を積極的に打ち出し、若者をいつ殺されるかわからない状態に陥れようとしている。 

端的に言えば被告安倍は若者に「国のために殺し、殺されろ」と言っているのである。被告安倍は次世代にとって「死に神」なのである。 

被告安倍は首相に就任して以来、与党の数の力にものを言わせて、国民の過半数が反対しており、慎重審議を求めていた教育基本法案や国民投票法案などを審議も尽くさぬまま、タウンミーティングでは「やらせ」まで行って強行採決し続けている。つまり被告安倍は議会制民主主義を自ら踏みにじり、独裁政治を行っていると言っても過言ではない。このような状況にあって、この裁判のように被告安倍の違法行為が明らかな裁判で敗訴判決を出すということは、これもまた民主主義を否定する行為であり、司法の死を意味する。そして、それは裁判所が被告安倍と同罪ということを意味する。 

この裁判に関わるすべてのみなさま、特に裁判官のみなさまは良心に基づき良識ある公正な判断をされますよう、どうかお願いいたします。今、止めなければあなたの子どもたち、お孫さんたちも巻き込まれていくのです。あなたの家族が林一歩さんの家族のような目に遭うことを想像してみてください。子どもたち、孫たちが将来「どうしてこんなひどい戦争をしたの?」と聞いてくる姿を想像してみてください。 

この裁判に関わるすべてのみなさま、この法廷に集まってくださったみなさま、私たちは今日ここに一同に会して、この口頭弁論を共有しました。「戦争とはこういうものだ」と教えてくれた亡くなられた林一歩さんの死を無駄にしないよう、命がけで被告安倍の暴走を止めなければなりません。あの時大人たちは命がけで戦争を止めたんだと子々孫々に語りつがれるようになりたいものです。それが大人たちの責任というものです。 

以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件 

準 備 書 面 (20)

 2007年5月21日

東京地方裁判所民事第43部 御中               

  

訴訟指揮への異議申立 

 

 今回、第3回口頭弁論は被告準備書面(5)の陳述とそれに対する原告の反論が行われる予定です。原告が用意した準備書面は9通、補助参考人による意見陳述書が1通です。 

前回第2回口頭弁論で松井裁判長が、日本国の首相という権力を持った被告とただの市民である原告の力の差を汲み取ってくださり、被告に対応してくださったことを心から感謝しています。しかしながら前回は原告の弁論時間を5分とされました。今回はもう少し長く取っていただけないでしょうか? 

素人が首相を訴えたこの裁判には国民の関心が高く、今からでも原告になりたいと申し出てくる人がおおぜいいます。それは残念ながら日本の裁判制度の不備から不可能だと答えると、ならば補助参加人として意見を述べたいという人もおり、今回、1通の意見陳述書を提出しています。また、原告の中からもぜひ自分で陳述したいということで、今回は6人が準備書面を書きました。このようにこの裁判には市民が積極的に関わろうとしています。非常に多くの国民が注目してくれているのです。裁判所としても国民がこれほど積極的に裁判に関わることは、むしろ望ましいことなのではないでしょうか。

今回は準備書面を書いたみんなが書面を提出するだけでなく、是非法廷で直接声を聞いていただきたいという希望を持っており、ストップウォッチを持ってリハーサルをしました。裁判所の都合も考慮し、早口で要点だけ述べましたが、最低でも、次にあげた時間がかかりました。全部で30分です。 

書面を読むだけなのと顔を見ながら生の訴え聞くのとでは雲泥の差があります。どうか松井裁判長は主権者である市民の願いをお聞き届け下さり、30分の弁論時間を取って下さいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

 

時間配分は以下の通りです。(時間は厳守いたします)。

 

1.準備書面(12) 真実を選ぶことはポジティブな行為 

 ―黒は黒であり白ではない― 

陳述者: T.I    3分

 

2.準備書面(13) 被告準備書面(2)の事務的なミス

         ―被告の無意識(深層心理)が表すもの― 

                    陳述者: W.Y   3分

 

3.準備書面(14) 「議員の会」結成趣旨自体が改定前の

教育基本法第10条違反 

       陳述者: W.Y  2分

 

4.準備書面(15) 被告安倍等の行ってきた「議員の会」による

「圧力・恫喝」は、改定前の教育基本法第10条違反 

           陳述者: T.H  5分

 

5.準備書面(16) 被告準備書面(3)への反論

        「議員の会」は自民党政治団体であり、

教育への介入の急先鋒となった団体である 

                    陳述者: T.E   5分

 

6.準備書面(17) 誰が見ても常識的かつ当然である事実

                    陳述者: W.Y  3分 

 

7.準備書面(18) 被告準備書面(2)第1に対して質問および反論

            ―日本語として成り立っていない準備書面―

                    陳述者: K.S 2分

 

. 準備書面(19) 大人たちの責任  ―安倍の暴走を止めよう― 

                    陳述者: K.S 3分

 

. 意見陳述書             代理陳述: W.Y 4分

 

計30分        

                               以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (21)

 2007年5月28

東京地方裁判所民事第43部 御中               

 

争点の整理

 

 準備書面(12)から(19)は原告が克明に詳述したものであるが、本法廷の審理において必ず確認されなければならないという意味であえてここに争点を明確にしておく。

 

(1)「従軍慰安婦」問題は日本政府として事実認定したものである(河野談話、「慰安婦」訴訟)。それに対して被告安倍、自民党有志は従来の歴史教科書を排除し、歪曲された歴史観をもつ「新しい歴史教科書」を普及する目的で「議員の会」を結成した。「議員の会」の「結成趣旨」自体が、改定前の教育基本法第10条違反である。 

(2)「議員の会」は自民党政治団体であり、教育への不当な介入の急先鋒となった圧力団体である。 

(3)被告安倍が事務局長を務めていた「議員の会」が、準備書面(5)に書いた面々を呼び出して浴びせた「激しい」言葉・発言は「圧力・恫喝」と認定される。 

(4)政治家が教育に関連する事柄に対してこのような「圧力・恫喝」を加えることは改定前の教育基本法第10条違反である。

 以上


平成18年(ワ)第20396号 安倍晋三等に対する損害賠償請求事件

 

準 備 書 面 (22)裁判所がつけている裁判の番号です。)

 2007年5月28

東京地方裁判所民事第43部 御中 

 

第二回口頭弁論調書に対する異議申立と要求 

 

一、第二回口頭弁論調書に対する異議申立

 

第二回口頭弁論調書は、第二回口頭弁論で行われた弁論内容の重要な事項を記載しておらず、不備であるので異議を申し立てる。 

原告が口頭弁論調書を見るのは二回目であるが、これが裁判の記録だということを認めるのに、穴のあくほど当該調書を見つめ、タイトルを眺め、裏までひっくり返して見てしまったのは、前回と同じである。第一回の時は、これは裁判のプログラムかと思い、書記官が間違って渡したのかと思ったほどである。なぜなら、そこには内容が何も書かれていないからである。 

原告は、この調書を読んでも何が審議されたのか思い出せず、やむなく自分のノートを確認した。裁判官らは、この弁論調書を見て、何が審議されたのか分かるのだろうか。 

これも、書記官の仕事の効率化なのだろうか。これでは、どの事件の調書も、事件名と名前を変えればどれも同じ調書になってしまう。小学校のPTA便りのほうが、よほど記録がしっかり残っている。ちなみにPTAの書記は何の報酬も無しに、もっとましな報告書を作っている。裁判官らは時間の無駄ばかりでなく、資源の無駄と書記官の給料の使い方についても、もっと神経質になるべきではないだろうか。 

 

二、要求

 

一に述べた異議により、次の内容を口頭弁論調書に加えることを求める。

 

1.第一回口頭弁論を欠席した被告に対し、原告より、自己紹介の求めがあった。松井裁判長は、これを受け、被告に名前を名乗るよう促した。被告はこれに応じ、名前を名乗った。 

2.原告より、「第一回口頭弁論調書に対する異議申立と要求」の陳述があり、「裁判の公正確保のための裁判の録音」と、「原告・被告・裁判長の三者の合意による弁論調書の作成」の要求があった。いずれも裁判長は「認められない」とし却下した。 

3.原告より2名の意見陳述の求めがあったが、裁判長は却下した。 

4.原告より準備書面(5)の陳述の求めがあり、裁判長は、原告側の時間は5分であると告げたうえで許可し、原告は口頭による陳述を行った。 

5.裁判長から被告に対し、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」について、団体としての性格や位置付け、被告・安倍晋三の事務局長としての役割、「議員の会」と自民党との関係など、被告のほうが説明しやすい立場にあるとし、「議員の会」についての基本的事項の説明するようにとの求めがあった。 

6.裁判長から被告に対し、原告の準備書面(5)には具体的事項が述べられているので、それらについて認否ないし反論するようにとの求めがあった。 

7.裁判長は、被告・準備書面()の「本裁判が司法権の範囲外の場にならんとする懸念もあり、適正な訴訟指揮のもと、直ちに本訴は棄却されるべきである」との主張は、「ふさわしくない」として却下した。 

8.被告から原告に対し、「原告から当事者照会書を複数送られてきたが、混乱を避けるため自民党本部などには送らず、弁護士事務所1カ所だけにしてほしい」との要望があった。原告は「当事者本人にも送るべきだと思った」と釈明したが、1箇所にすることに同意。当事者照会書は橋爪法律事務所だけに送ると取決めた。 

9.原告より、「被告は、原告が送った当事者照会書に対し、裁判の前日になって、照会の全ての事項について『回答する必要がない』と回答してきた。裁判長から、被告に誠実に対応するよう指示してください」との求めがあった。裁判長は「当事者照会は当事者間のことであり、裁判所は関知しない」としてこれを却下した。

 

以上、1〜9を第二回口頭弁論調書に記載することを要求する。

 

松井さん、阿部さん、大倉さんも、これで2007年2月16日の527法廷で何が話し合われたか、少しは思い出せたのではないだろうか。このような仕事を、次回はぜひ、原告ではなく書記官にやっていただきたいと、原告は訴えるものである。 

以上


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